人の資本主義

人の資本主義
人の資本主義
中島隆博
東京大学出版会
2021年11月16日
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  • ⭐️⭐️⭐️ 】私たちは資本主義の「部品」か、それとも「目的」か?――中島隆博編『人の資本主義』が問う、新たな豊かさ】 毎日、「成長」や「効率化」という言葉に取り囲まれ、私たちはいつの間にか社会という巨大なシステムを回すための「歯車」のように感じてしまうことはないでしょうか。行き過ぎた格差や環境問題など、現在の経済システムが限界を迎えていることは誰もが肌で感じています。 そんな現代の閉塞感に対し、経済のあり方を「人間のためのもの」へと根本から取り戻そうと試みるのが、中島隆博編『人の資本主義』(東京大学出版会)です。立命館大学での研究プロジェクトから生まれた本書は、哲学、歴史学、経済学の第一線で活躍する識者たちが集い、「人間がともに人間的になっていくための資本主義」を構想した極めてスリリングな論考集です。 本書の最大の魅力は、これまでの経済学が無意識に前提としてきた「人間観」そのものを解体していく点にあります。人間とは本当に、自らの利益だけを最大化しようとする「利己的な個人(ホモ・エコノミクス)」なのでしょうか? 本書の中盤(第Ⅱ部)では、この乾いた人間像を退けます。人間が本来持っている豊かな「想像力」や、他者への「命への共感」を軸に据え、共生社会における人間の主体性を温かく解き直していくプロセスは圧巻です。 さらに議論は、地球環境の限界(プラネタリー・バウンダリー)を見据えたマクロな視点へと展開します(第Ⅲ部)。「無限の経済成長」というもはや破綻しつつある神話からいかに脱却し、脱成長論や定常経済のなかに豊かな可能性を見出すか。そして、地域に根ざしたコミュニティ経済がいかにして可能か。 ここで語られるのは、単なる制度の微修正ではなく、「私たちはどのような社会で、どう生きたいのか」という文明論的な問いそのものです。 「システムのために人がいる」のではなく、「人間がともに人間的になっていくため」の経済へ。 各章の最後には識者同士の熱を帯びた「討議」が収録されており、読者に「いまの資本主義とは別のあり方」を想像する確かな力を与えてくれます。 今の社会のあり方に息苦しさを感じている方、数字や効率だけでは測れない「ほんとうの豊かさ」を探求したい方に、本書は鮮やかな視座を与えてくれます。難解なテーマを扱いながらも、未来に向けた前向きなエネルギーに満ちた一冊。読み終えた後、あなたの目の前の景色は、きっと少し希望を帯びたものに変わっているはずです。
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