ブランディングの科学 新市場開拓篇 エビデンスに基づいたブランド成長の新法則

ブランディングの科学 新市場開拓篇 エビデンスに基づいたブランド成長の新法則
ブランディングの科学 新市場開拓篇 エビデンスに基づいたブランド成長の新法則
パイロン・シャープ、ジェニー・ロ
前平謙二
朝日新聞出版
2020年8月20日
1件の記録
  • ⭐️⭐️⭐️ 私たちはしばしば、自分の身を置く環境や関わっている領域について、「ここは少し特殊だから」と考えてしまうことはないでしょうか。他の場所で通用した一般的なルールも、自分たちの複雑な状況には当てはまらないはずだ、と。 バイロン・シャープとジェニー・ロマニウクによる『ブランディングの科学 新市場開拓篇』は、私たちが無意識に抱えているそんな「特殊性の神話」に対して、静かで透明な問いを投げかけてくれる一冊です。 前作で示された「ロイヤルティよりも浸透率が重要である」という法則。本書は、その法則がB2B市場やサービス業、あるいはラグジュアリーブランドといった、「私たちのお客様は他とは違う」と信じられがちな領域においても、等しく当てはまることを膨大なデータとともに示していきます。 たとえ複雑な企業間取引であっても、最終的に決断を下すのは一人の人間です。人間の記憶の構造や行動の原理は、業界の壁を越えて、私たちが思う以上に共通しているのかもしれません。 本書の中で特に興味深いのは、「CEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)」という概念を通じて、人間の記憶と日常の文脈を紐解いていくアプローチです。 人が何かを求めるとき、それは単に「そのブランドが好きだから」という理由だけではありません。「休日の静かな朝に」「急いで仕事を終わらせたい時に」といった、生活の中の具体的な状況や動機が、私たちの無意識の選択を形作っています。 私たちが人々に受け入れられるためには、こうした多様な生活の文脈と、どのように記憶の結びつきを作っていくべきか。それは、私たちが他者の暮らしにどう寄り添うかという、とても人間的な問いのようにも感じられます。 また、現代で過大評価されがちな「口コミ」に対する冷静な眼差しも、本書の魅力の一つです。口コミが魔法のように新しい世界を切り拓くのではなく、それはあくまで「すでにそこにある規模」の反映に過ぎないという事実は、少し冷徹に響くかもしれません。 しかしそれは同時に、奇をてらった特効薬を探すのではなく、誠実に、そして地道に人々の生活の風景の中に存在し続けることの大切さを教えてくれているのではないでしょうか。 データや法則という言葉が並ぶと、少し無機質な印象を受けるかもしれません。しかしその奥底にあるのは、人間の認知や行動のありのままの姿を、謙虚に見つめようとする静かな姿勢です。 ご自身の携わる領域の「特殊性」に少し行き詰まりを感じたとき、あるいは、人間が何かを選ぶという行為の不思議さに触れたくなったとき。ぜひ、この本を開いてみてはいかがでしょうか。私たちが普段見落としていた「当たり前の風景」が、新しい輪郭を持って見えてくるかもしれません。
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