妖怪少年の日々 アラマタ自伝 (角川書店単行本)

1件の記録
うーえの🐧@tosarino2026年8月10日読み終わった⭐️⭐️⭐️⭐️ 効率や「役に立つこと」ばかりが求められる現代において、純粋な知的好奇心に身を委ねる時間はどれほど残されているでしょうか。 『妖怪少年の日々 アラマタ自伝』は、そんな実利主義の枠組みから軽やかに逸脱し、森羅万象の「驚異(ワンダー)」を追い求め続けた知の怪人・荒俣宏による、規格外の人生録です。 ■システムの周縁から「知の怪人」へ 大学卒業後、水産会社でコンピュータ・プログラマーとして約9年半の企業勤めを経験した著者が、いかにして独自の博物学や怪奇幻想文学の世界へ躍り出たのか。 本作の醍醐味は、単なるノスタルジーにとどまらない、一個人の鮮やかな「知の跳躍」の記録にあります。 組織やビジネスというシステムの論理で生きる日々と、個人の内側で燃え盛るマニアックな探求心。 その狭間で揺れ動き、やがて文筆業へ完全に舵を切る姿は、実社会のビジネスと学問・思想の世界の境界を歩む者にとって、強烈な共感とインスピレーションを与えてくれるはずです。 ■体系化を拒む、知的な「脱線」の連続 本書は、時系列に沿った整然たる自己語りではありません。 下町の原風景を語っていたはずが、いつの間にか怪奇小説翻訳の泰斗である恩師・平井呈一の破天荒な奇人伝へとすり替わり、さらには都市空間の地理的考察や妖怪の民俗学的分析へと縦横無尽に「脱線」していきます。 しかし、この脱線に次ぐ脱線こそが荒俣宏の真骨頂です。 あらかじめ用意された物語的な枠組み(ナラティヴ)に綺麗に収まることを拒否し、対象の持つ複雑さや奇異さをそのままの熱量で提示する手腕は、精緻なテクスト分析や多角的な文化批評を好む読者の知的好奇心を、これでもかと刺激します。 ■「驚き」に感電し続けるための指南書 「未知のものに出会ったときのワクワクを、大人の理屈で片付けずに感電し続けること」。 これが本書を貫く確固たる哲学です。意味や結論、あるいはコストパフォーマンスを急ぐのではなく、世界の分厚さと不可解さをそのまま楽しむことの豊かさがここには溢れています。 効率化された日常のロジックから一歩退き、圧倒的な熱量と知識の奔流に身を任せてみませんか。知を愛し、書物を愛するすべての人へ。 そして、自身の内なる「ワンダー」に再び火をつけ、深い思索の海へ潜りたいと願う方にこそ紐解いてほしい、極上の「知の迷宮」への招待状です。