ゆき
@yu-ki
p38
なるほど、言われてよく見れば、地下へと続く階段の入口の壁に、葉書ほどのサイズのプラスチックの板が貼られていた。白地に黒い文字で「スナックひばり」と小さく書かれているのだが、それは看板というより表札と言いたくなる程控えめなものだった。
「こんなに小さいと、お客さんに気づいてもらえないんじゃ、、、」
「いいのよ、これで。言葉ってのはね、大事なことほど小声でささやくものなの。その方が相手の心の奥にまでしっかり届くんだから。看板だって同じよ」
ゆき
@yu-ki
p67
「ねえゴンママ、ホントに怖いの。〆切までにストーリーが降ってこなかったときのこと考えると胃がキリキリするくらい。今回はね、主人公の龍助がはじめて女の子にフラれるシーンを描こうと思ってるんだけど、なんか、こう、粋なフラれ方がちっとも思い浮かばなくてさ、、、。何かいいアイデアないかなぁ」
〜
「だって、わたしはいつも、ごめんなさいって謝っちゃうか、ムリムリ〜って笑い飛ばすからどっちかなんだもん」
〜
「きれいね、これ、、、」
「でしょ。それはね、ブルームーンっていうのよ」
「ああ、それで、青いお月様ってわけね?」
「そうよ」
〜
「初めて飲むかも。で、これをどうしてわたしに?」
「カオリちゃん、ブルームーンの意味を教えてあげてくれる?」
「はい。このブルームーンこカクテル言葉は、『無理な相談です』なんです」
〜
「ミレイちゃん、いいこと?そのカクテルはね、男性に口説かれている女性が、スマートにお断りをするときに飲むものなのよ」
男が口説く、、、それにたいして、女性が「無理な相談」という意味のカクテルを飲む。
ゆき
@yu-ki
p109
「あ、あなたは部外者ですから、首を突っ込まないでください」
「あらそう。じゃあ、最後にひと言だけ坊やに言わせてちょうだい」
〜
「いいこと?人生に大切なのはね、自分に何が起こったかじゃなくて、起こったことにたいして自分が何をするか、なのよ。怒ったことなんて、そのまま受け入れればいいの。どうせ過去は変えようがないんだから。でもね、考え方ひとつで、起こったことをチャンスに変えることはできるの。ピンチはチャンスよ。分かるわね、坊や。あなたは今回のチャンスを利用して、人気作家から絶大な信頼を得なさい。そうすれば、あなたの将来に、きっとプラスになるわ。しかも、ここで踏ん張れば、心の筋肉も少しは鍛えられて、いい男になれるわよ」
〜
あと一歩だ。もう少しで、この小さな男は落ちる。
〜
「もしもミレイさんが他誌に移っちゃったら、それこそ大変じゃないですか?ここは、作家の信頼を勝ち得た方がお得だと思います」
ゆき
@yu-ki
p166
「誰かを愛して誰かを失ったひとは、何も失っていないひとよりも美しい」
〜
「イルマーレっていう映画に出てくる有名な台詞です」
〜
「でもね、愛した人を失わないように努力をした人だけが、きっと美しいのよ。最初からあきらめていた人は、たとえ愛する人を失っても、そんなに美しくないはずだわ」
ゆき
@yu-ki
p289
トレーニングは、権田にとって「安全地帯」のようなものだった。耐えがたい「不安」から逃れるための唯一の場所なのだ。もちろん、それが一時的なトランキライザーでしかないことは理解していた。それでもなお、夜更けのこの自虐的なトレーニングから逃れられない日々を、権田は送るほかなかったのだ。
ゆき
@yu-ki
p309
「一瞬のいまを、大切に生きるーー。阿吽って、そういう意味なんだって、ママに教えてもらったんです」
〜
「言いましたよ。あうんっての阿は、五十音のはじまりの『あ』で、吽は終わりの『ん』のことで、つまり阿吽はこの世の全てを表す禅の言葉なんだって。転じて、この世のすべては、阿と吽のあいだの一瞬のいまにしか存在しなくて、あなたが生きられるのも、いまこの瞬間だけなのよってーー」
ゆき
@yu-ki
p310
いい、カオリちゃんー
あなたが生きられるのは、いまこの瞬間だけなのよ。過去と未来を思い煩っても、それは無駄なだけ。
やり直すことのできない過去を悲しんでいたら、せっかく生きている「いま」が不幸になっちゃうでしょ?それにね、まだ来てもいない未来を不安がっても仕方ないじゃない。大切な「いま」をつまらなくするだけだわ。
辛い過去になんてとらわれないで、未来の不安もぜーんぶ忘れて、いまこの瞬間だけをしっかりと味わって生きなさい。
それが、禅の「幸せに生きる極意」なのよーー。
ゆき
@yu-ki
p317
「夢はね、必ず叶えなくちゃ駄目なの。叶えるとね、アラ不思議、あなたの過去が変わるのよ」
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「そうよ。夢を叶えた瞬間にね、きっとカオリちゃんは思うはず。ああ、わたしのこれまでの人生は、今日、この日のためにあったんだって。その瞬間、まるでオセロの黒い列が、端っこから一気にパタパタと白に変わるみたいにら辛かった過去がキラキラした大切な思い出に変わるのよ」


