石井(た)
@ishii_kyuri
2026年8月23日
路草 朽花 川崎長太郎初期名作集
川崎長太郎
読み終わった
「殺すなら、殺してごらんなさいよ」
ますます調子に乗り、ぐいっとその張った肩先を突きだし、私の胸にぶつけるのであった。東京の下町に生れた当時は相当裕福だった左官職の棟梁の一人娘として育った彼女には、時々巻舌が口に出ることがあった。私は自分の胸元をぐいぐい押されて歯ぎしりし、とうとう意気地のない涙をにじませた。
「何んだ。殺すほど惚れてやしないじゃないか」
彼女は肩先の力をゆるめて、つばをはく時のような口をした。