
もと
@jejosko
2026年9月21日

女たちの沈黙
パット・バーカー,
北村みちよ
読み終わった
ノーラン『オデュッセイア』鑑賞後の勢いのままに積読していたのを読み進めた。『オデュッセイア』鑑賞の副読本としてこれ以上ない。映画劇中で首を落とされたアテナの巫女こそがこの本の女たちであり、ペネロペ、キルケー、ヘレネ、クリュタイムネーストラーと、一貫して「怒れる女」として描かれていた女たちの悼ましさの実情。
アキレウスをはじめとする叙事詩に名高い英雄たちの、威光に覆われて不可視化されている有害な男らしさと残忍な傲慢さを描き出しつつも、アキレウスに限っては半神の生まれや神々に翻弄される運命への苦悩、パトロクロスとの別れの心情も緻密に描写されていたのが公平だったと思う。
本編中でブリセイスの独白があったように、私たちはどうしてもブリセイスとアキレウスの関係にロマンスが発生することを期待し、そうあったらと望んでしまうけれど、アキレウスとの間に子をもうけ、彼との間に不思議な絆が生まれ、死にゆく彼からの最大の関心を与えられてもなお、侵略者と被害者、主人と奴隷という立場は変わらない。心の底から絆されるなんて事象は存在しない。アキレウスこそが彼女にとって家族や夫を殺した存在である事実は消えない。同時にアキレウスという偉大な存在の戦利品であることによってはじめて庇護され命を保証されうる。その身動きの取れなさ。『奴隷に対する残忍さの度合いが違うだけ』。
「(ブリセイスが何をしようと)アキレウスの物語に包摂されてしまう」事実こそが現在まで続く女の沈黙性の本質だと思った。然らば女たち自身が自らの声と言葉で歌い書き伝えるほかなく。
悼ましい内容でありつつ翻訳体もサラッとしていて読みやすい。
続編『トロイの女たち』も読むぞ〜〜!
