ぺっぱーたん
@libri_pepperi
1900年1月1日

ボローニャ紀行
井上ひさし
かつて読んだ
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2009年10月に書いたメモから.
恥ずかしながら,著者の井上ひさし氏についてはこれまで「ひょっこりひょうたん島」の印象しかなかった.氏はドミニコ修道会で洗礼を受けたクリスチャンで,その本部のあるボローニャには30年来恋焦がれていたらしい.そんな氏にボローニャでのTV番組の収録の話があり,渡りに船とばかりに乗り込んだ際の旅紀行である.
全編にわたって「ボローニャ方式」と呼ばれる街の再生方法が紹介される.建物を建て直すのではなく,内部を改修することで再生させ歴史的建造物や景観を生かした街づくりのことである.また,社会的協同組合を中心とした文化や経済の振興,銀行など金融機関のあり方など,著者もいうとおり極東にあるわが国とは考え方が根本的に違っている.確かにヨーロッパの起こりはいわゆる都市国家であり,そこから市民の意識が発生した.それは,国より地方や街,遠くのことより身近なことが基本にある.
とはいえ,あいも変わらぬ都市部や大企業中心の経済政策,金融機関の優遇措置.ついでのような中小企業へのお情け程度の支援と箱物行政中心の地方へのばら撒きなど,今のこの国の在りようと比較せずにはいられない.日本は先進国だというが,その割りには社会の成熟度が低すぎる.かつてバブル期の日本は「経済1流,文化2流,政治3流」といわれていたように記憶する.しかし,バブル崩壊以降,経済は2流かそれ以下,政治にいたっては今やどう贔屓目に見ても3流以下だろう.
ところで,この本にはヨーロッパ最古の大学,ボローニャ大学の話が出てくる.創立は1088年(この年,日本は後三年の役とのこと)で,OBにはダンテ,ペトラルカ,エラスムス,コペルニクス,ガリレイなど文学史や科学史でおなじみのビッグネームがずらり.
ボローニャはかってイタリアの要衝でもあり,交易の中心として栄えた.そのため,法律学など実学を学ぶ学生が各国から集まったのだという.そして,学生が組合を作り教師を雇い勉学に勤しんだというのがボローニャ大学の起源の由.そんな背景からか大学といってもキャンパスがあったわけではなくそれこそ街中が教室だったらしい.ついでながら,universityなる語はラテン語で自治的な組合の意味のUNIVERSITASがその起源とのこと.つまり,英語のunionなどと語源を同じにする言葉である.
このボローニャ大学の説明のなかに恐ろしい(?)記述がある.
学生が管理する大学だから,教授の人選は学生がやる.授業内容も,給料も学生が決める.つまらない講義をする教授や,聴講生の少ない教授からは学生が罰金を取る.それでも改善されなければ,その教授を学生がクビにする.もちろん,学長も学生から選ばれていました.[pp. 28-29]
なお,同じ頃にパリ大学も創立されたらしいが,こちらは聖職者育成を目的とした神学中心ということもあり,教会のバックアップのもと教師たちが組織した組合が運営していたらしい.
日本の大学は国が設置許可をするという意味でパリ大学に近い.それでも,以前は大学の自治という言葉をよく聞いたが最近は死語に近い.また,授業アンケートなる各科目ごとの学生アンケートも実施されてはいるが,本質的な部分で上記とは状況が全く異なる.大学の在りようをあらためて考えさせられた.