
CandidE
@candide_jp
2025年4月12日

聖なる侵入〔新訳版〕
フィリップKディック
読み終わった
「聖書にはこんなことは書いてなかったと思うわ。マリアがつわりで苦しんでいるところなんか。むくみと妊娠線も出るんでしょうね。聖書にはそれも書いてなかったはず。どっかの壁の落書きとしては気が利いてる、と彼女は内心で思った。処女マリアに妊娠線。」
ヴァリス三部作の第二部『聖なる侵入』。『ヴァリス』から続けて読み進める。これも好い! 凄く好い! 何が好いかというと、PKDが生きていることそのものに伴う理不尽と苦しみに対し、全編を通じてストレートに怒りをぶち撒けている感じがするところ。
訳者あとがきを引用すると、「『ヴァリス』のそもそもの問題意識は、世界に不幸や苦しみや死がある理由、つまり悪魔たるぼくが存在するのはなぜか、ということ」である。
そうです、なぜ神は悪魔の存在を許しているのか。これは本当によくわからない。神様が理不尽でムカムカする。作中の登場人物もこう叫んでいる。
「ヤアは何が先にあるかを予見するけれど、あたしは予見できないし、もっともっと残酷さと苦痛と嘔吐があることしかわからない。神様に奉仕するって、毎日ゲロを吐きつつ注射するみたいなことなのね。何か檻の中の病気のラットだわ。神様はあたしをそんなものに仕立てたのよ。あたしは信頼も希望もなく、神様には愛もなく、力しかない。」
まあ本当にいろいろ面白いのだが、個人的には、苦痛と死についての犬のエピソードが印象的だった。瀕死の犬をめぐるちょっとした議論と解釈に、神の存在と悪の問題という理不尽さが象徴的に描かれている、と私は感じた。詳細はぜひ本編でお楽しみあれ。
訳も素晴らしく、あとがきも独特で、訳者自身が「悪魔視点」で本書を解説・総括している点が異彩を放っている。
とにかく、『スキャナー・ダークリー』→『ヴァリス』→『聖なる侵入』という順序での読書をおすすめする。後期PKDの世界観にズブズブと浸りながら、皮肉やユーモア、滑稽さに溢れ、ときに壮大な神学や宇宙論に振り回されぶっ飛ばされるところに思わず笑いが込み上げる、そんな読書体験である。続く。
