えーえんとくちから 笹井宏之作品集

2件の記録
- 巽@Tatumi2025年5月16日再読真水から引き上げる手がしっかりと私を掴みまた離すのだ きんいろのきりん あなたの平原で私がふれた唯一のもの 「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす まばゆいね、まばゆいねって宇宙服きたままはじきあう青林檎 半袖のシャツ 夏 オペラグラスからみえるすべてのものに拍手を 「スライスチーズ、スライスチーズになる前の話をぼくにきかせておくれ」 葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある ふわふわを、つかんだことのかなしみの あれはおそらくしあわせでした やむをえず私は春の質問としてみずうみへ素足をひたす 氷面に<さとなか歯科>と刻まれて彗星軌道を漂うやかん あるいは鳥になりたいのかもしれなくて夜をはためくテーブルクロス ゆきげしき みたい にんげんよにんくらいころしてしまいそうな ゆきげしき 骨盤のゆがみをなおすおかゆです、鮭フレークが降る交差点 簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的にはたべて あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる ほんのすこし命をおわけいたします 月夜の底の紙風船へ さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから 白金のピアノにふれているゆびが、どうしようどこまでも未来だ ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください 流星が尾をふる音がきこえます ゆりかもめ、そちらはどうですか ゆつくりと私は道を踏みはづす金木犀のかをりの中で あとほんのすこしの辛抱だったのに氷になるだなんて ばか者 音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔 風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが 花束をかかえるように猫を抱くいくさではないものの喩えに 泣いてゐるものは青かり この星もきつとおほきな涙であらう もうそろそろ私が屋根であることに気づいて傘をたたんでほしい 一生に一度ひらくという窓のむこう あなたは靴をそろえる 好きだ なす術もなく