なにも食えない

2件の記録
あんどん書房@andn2026年1月8日読み終わった“いつもおれは、ビザやパスタのある国や都市だけを選んで行く。”(P7) 前回の東京文フリはカタログを隅々まで読み込んで行ったのだけれど、そんな中でも特に異彩を放っていたのが本書。 世界各地に行って、現地の名物を、食べないのだ。シンガポールでは海南鶏飯を食べず(奇妙な光沢と色が変)、上海では上海蟹を食べない(蟹味噌はセメントみたい)。 なんか垂れていたり、よく分からないものは基本ダメ。食べられそうであっても、ピザやパスタがあればそちらを選ぶ…。 “騙されたと思って、の意味がわからない。食べてみたところでふつうに不味い。自分の舌を信じている。”(P62) 食わず嫌いも極まるとコンテンツになるんだなぁ。そしてこの太々しさみたいなものが、全体に独特のユーモアを纏わせていて良い。 さらに、謎に冷めているのは食に対してだけではない。インフィニティプールは冷たすぎて楽しめなかったり、間欠泉の写真は汚い噴水みたいになったり…。なぜかそういう記憶ばかりが続いてゆく。 自分なぞはせっかく旅に来たのだからと名産や名所を求めてしまうほうの人間だが、本書はそんな「当たり前」に一石を投じるような紀行エッセイになっていると思う。(頭木さんの「共食圧力」みたいな話も思い出す) しかし、何より一番興味深いのは、そんな食えないもんだらけでも海外に行くことをやめない著者のスタイルだろう。 “夜、風呂から上がり髪を乾かし、夜風に当たりながらコンビニへ向かう、そのときいつもの道なのに少しばかり心が浮つく、ともすると来たことのない場所に来てしまったという感覚さえある、そういうときにふと、このまま海外にでも行きたいな、と思うことがある”(P11) 日常にひびをいれるために、海外へゆく。その発想は自分には全く無いものだからこそ、著者のことをもっと知りたくなる。 ぜひ活躍されて色々書いてほしいお一人だ。 (経歴を見るとカフカショートストーリーコンテストで優秀賞を獲られていて、『文學界』ですでに出会っている方だった…!) 本文書体:游明朝体 著者・装幀・発行者:染水翔太

