農家はもっと減っていい

農家はもっと減っていい
農家はもっと減っていい
久松達央
光文社
2022年8月18日
5件の記録
  • ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 「かわいそうな農業」という幻想を破壊せよ。旧態依然とした産業を変革するための、冷徹で泥臭いビジネスデザインの書 「農家の高齢化が進み、担い手が減少している。このままでは日本の食料自給率が危ない」――ニュースや新聞で幾度となく繰り返されてきたこの悲報論に対し、私たちは無意識のうちに「農業=保護されるべき弱者」というステレオタイプを抱いてはいないでしょうか。 しかし、新規事業開発(BizDev)や事業のスケール化を担う立場から産業構造を俯瞰したとき、その見立ては本当に正しいのでしょうか。 茨城県で有機農業を営みながら独自のバリューチェーンを構築してきた久松達央氏による『農家はもっと減っていい 農業の「常識」はウソだらけ』は、そんな世間一般の情緒的な農業観を真っ向から否定し、極めてロジカルな「ビジネスの原則」を突きつける痛快にして重厚な一冊です。 ■「農家の減少」は衰退ではなく、健全な新陳代謝である 本書の最大のハイライトは、タイトルの通り「農家が減ることは悪ではない」と言い切る点にあります。 著者がデータと現場のリアルな視点から解き明かすのは、実際に減少しているのは農協(JA)のインフラや補助金に依存してきた生産性の低い「小規模な兼業農家」であるという事実です。 市場原理から見れば、非効率なプレイヤーが退場し、経営能力と資本を持ったプロフェッショナルな専業農家や農業法人へと農地が集約されていくのは、あらゆる産業で起こる「健全な新陳代謝」に過ぎません。 農業だけを聖域化し、情緒的な「かわいそうな農家」というフィルターを通して語る限り、本質的な産業のアップデートは起こらないのです。 斜陽産業におけるゲームのルールチェンジを企図するビジネスアーキテクトにとって、この「ファクトに基づく冷徹な現状認識」は、すべての戦略の起点となります。 ■プロダクトアウトの限界と、農業の「SPA化」の壁 日本の農業の根深い問題として、著者は「良いものを作れば売れる」という生産者本位のプロダクトアウト思考を挙げます。 これからの農業経営に求められるのは、マーケットインの視点を持ち、自ら価格決定権を握ることです。 例えば、農作物を単に市場へ出荷するだけでなく、独自の果実酒やエシカルなブレンドティーといった高付加価値なプロダクトへと加工し、消費者に直接届ける「農業のSPA(製造小売業)モデル」を構想したとしましょう。 ホワイトボードに美しいリーンキャンバスを描き、魅力的なビジョンを掲げることは容易いです。 しかし著者は、「直販」や「有機農業」という甘美な響きの裏にある厳しい経営の現実を容赦なく突きつけます。 ■ユニットエコノミクスと「ラストワンマイル」の現実 「安全な野菜を作って直接届ける」というモデルは、本質的には高度なマーケティング業でありロジスティクス業です。単に無農薬で作物を作るだけではビジネスは成立しません。 直販モデルに踏み切った瞬間、小口配送による物流費の高騰、顧客からの問い合わせ対応、そして新規顧客の獲得コスト(CAC)が経営を圧迫します。 LTV(顧客生涯価値)とCACのバランスといった精緻なユニットエコノミクスを描き、牛乳販売店のような地域密着型のラストワンマイル物流をも凌駕する独自の配送網や顧客コミュニティを構築できなければ、たちまちキャッシュは底をつきます。 農業における直販モデルとは、「農法」の問題ではなく、極めて難易度の高い「事業構造の再設計」であることを本書は痛烈に教えてくれます。 ■職人技から「組織力」へ。求められるマネジメントの知性 そして事業をスケールさせる最終関門として描かれるのが、「属人性の排除」です。 長らく勘と経験、あるいは家族の無償労働という「職人の技」に依存してきた農業を、いかにして再現性のある「組織の力」へと転換するか。 マニュアルの整備、適切な労務管理、チームビルディング。著者が自らの失敗を赤裸々に語りながら提示するマネジメント論は、ITスタートアップや他のあらゆるビジネスの現場で語られる組織論と完全に一致します。 土と向き合うだけでなく、ビジネスアーキテクトとして人と組織を動かす力こそが、次世代の農業経営には不可欠なのです。 『農家はもっと減っていい』は、決して農業関係者だけに向けて書かれた本ではありません。 これは、旧態依然とした慣習がはびこるレガシー産業において、いかにして持続可能なビジネスモデルを実装し、新たな価値を社会に提供していくかを描いた「極上の事業開発(BizDev)のケーススタディ」です。 理想の事業モデルが現実の壁にぶつかったとき、あるいは既存の産業構造に疑問を抱いたとき。 情理に流されず、冷徹な論理と現場の泥臭い実践の双方からビジネスを見つめ直すための、最高に刺激的な指南書となるはずです。 ぜひ手に取り、その圧倒的な「経営のリアル」に触れてみてください。
  • ゴコ
    ゴコ
    @goko1810
    2026年9月19日
  • たつ
    @239d8210
    2026年7月31日
  • 本の内容に賛同はするが、考えないまま働きたい、生きたい人の存在は無視できないと思う
  • chutan
    chutan
    @junkers_5711
    2026年4月4日
    農業をベースに書かれてはいるが、ビジネス書として、さらには生き方を指南してくれる良書。仕事と人生は切っても切れないと改めて感じた
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