字幕屋に「、」はない

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- 中根龍一郎@ryo_nakane2025年3月21日読み終わったセリフ1秒につき4文字。1秒未満で発話される「l'm not lying.」を「嘘じゃないわ」とすると、文字数が長すぎるので、「本当よ」にする……文字数はどこの業界でも苦労の種に思える。印象的だったのは、文字数や可読性を考慮して算用数字と漢数字の使い分けに悩むような、正解がない場面で模索している箇所だった。ノウハウやテクニックでどうにかなる問題があり、一方で、そのつど答えをつくらなくてはならない局面がある。正しい訳を保てない時もあれば、原文が誤っていることもある。あとから勝手に字幕に手を加えられていることもある……そうしたことを防ぐような仕組みづくりができればいいのに、というのは外からの目線で、結局のところシステマティックには処理できない場面というのはおそらくどこの世界でも、どうしても出てくる。そうした処理の残り物のようなものをどう整えて(いるかのように)完成品に詰め込んでいくのかは、その現場において地道で、時に大胆なオペレーションをしている技術者にかかっている。それを属人的なオールドスタイルだということもできるだろうし、そうした古い体制が残る業界だからこそ「達人」「名人」のような人が生まれるということもできるだろう。 そして私は、そうした(時にやむを得ず生まれた)名人芸を見るのがけっこう好きだ。 字幕校正のエピソードも少しだけ出てくるが、著者校のような話で、校正者の姿はない。Netflixの字幕にはまれに漢字の間違いや脱字があるような気がする。動画配信が個人レベルでも企業レベルでも広く一般的になって、字幕のノウハウやテクニックは、どのように伝承され、あるいは失伝しているのだろうと思った。