カロカイン−国家と密告の自白剤 (lettres)

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マヌルネコ@myws19922026年1月2日読み終わった借りてきたスウェーデンの国民的詩人カリン·ボイエによる散文作品。 いわゆるディストピア小説なのだが、読後の印象は『1984年』や『すばらしい新世界』などとはずいぶん違う。 舞台となるのは、国家権力による人々の管理が徹底されている〈世界国家〉。モットーがやばい。「だれも完全には信用できない!あなたのいちばん近くにいる人が売国奴かもしれない!」 語り手は化学者であり、自らの悪魔的な発明品「カロカイン」を元手に、そんな世界で出世の縁をつかもうとする。 「カロカイン」は人々の最後の秘密=内面の声を本人の意思などかまわずしゃべらせてしまう自白剤である。この発明によって国家は人びとの行動だけでなく、内心までも支配できるようになる。とてもおそろしい。 薬剤を投与された者が吐露する内容は時に語り手に忘れ難い印象を与える。やがてそれはことあるごとに語り手の中に蘇ってくるようになる。「カロカイン」には、どうやら奇妙な効用があるらしい…。 この小説は回想のかたちをとる。語り手はこのじつにおぞましい世界で自らも監視されながら、次第にある希望とそれを希求することを、拒みきれなくなってゆく。「ほんの数日前なら、そのような考えはわたしを怖気づかせただろう」希望というか、希望の希望というべきか。その希求のされかたがほかのディストピア小説とこの作品との読後感の分かれ目だと思う。 作品が出版されたのは1940年。作者がソヴィエトとナチスドイツ、2つの強国に挟まれた小国スウェーデンの人だったからこそ、こういうかたちの作品となったのかと思わせる。