ジャパニーズウイスキー入門 現場から見た熱狂の舞台裏

3件の記録
みーる@Lt0616pv2026年8月22日買った読み終わった自分の1番の趣味である「ウイスキー」 もちろん飲むのも楽しいが、なにより魅せられたのはその製造過程。糖化、発酵、蒸溜、そして樽熟成。3年以上待ち、そこからブレンドして消費者である我々の手に届く。作り方自体は同じなのにつくられた地域や環境によっても味わいが違う。突き詰めれば、貯蔵庫にある隣同士の樽ですら味わいが違う。本書でも書かれていたが、時間にするとウイスキーづくりの99パーセントは樽熟成。残りの1%に工夫を凝らす。そんな「つくる立場」からウイスキーを知りたくて、本書を手に取った。 もともと三郎丸蒸溜所の稲垣さんの存在は知っていた。動画で見た限り本当に失礼だが、冴えない人という印象だった。が、本書を読み進めていくうちにここまで聡明にウイスキー界の未来を考えている作り手は日本中探してもいないのではないかと思うようになった。稲垣さんごめんなさい。 本書はタイトル通り入門書であり、ウイスキーラバーであれば必読書である。第二章の日本のウイスキーの歴史では初めて知る事実も多くあり、現在のウイスキーブームに至るまでの紆余曲折を知ることができた。第五章からは三郎丸蒸溜所の歩みが描かれていた。一本のドキュメンタリー映画を観ているかのような稲垣貴彦さんの苦悩と熱量、現状を打破しようとする覚悟、そしてウイスキーが何よりも好きなことが伝わってきた。鋳造型のポットスチルZEMONの制作秘話では、稲垣さんと三宅製作所との偶然の出会いや老子製作所との二人三脚、そして三郎丸蒸溜所の特許とすることなく、権利を富山県とシェアしたことへの心意気。ウイスキーを一時のブームで終わらせるのではなく、日本の文化の一つとして確立しようとするその意思に感銘を受けた。現に、飛騨高山蒸留所もZEMONを使っており、日本のウイスキー界を支えてくれている。 経営の視点でみるとウイスキーは特殊だろう。莫大な初期費用のみならず、広大な土地と恵まれた環境、そして何より商品がない中でブランディングを進めなければいけない。近年のジャパニーズウイスキーは品質はいいが高価であり、一部の消費者しか手に届きづらい。キャッシュを確保しながら熟成も進めなければいけない厳しさが価格に表れている。おわりにも述べられていたが、企業間の競争を中心にウイスキー産業を考えてしまうと結局、クラフトディスティラリーは潰れてしまう。持続可能なサイクルを作ることができるように樽を買い取るボトラーズを増やし、蒸溜所がキャッシュを確保しながら操業できる仕組みを日本全体で整えていくことが大切だと思う。 一方で、日本洋酒酒造組合が制定した「ジャパニーズウイスキーの基準」の法整備化が難しいこともわかる。日本のウイスキーの文化的な価値を守るためにウイスキーの基準をスコットランドに合わせる努力は大きな一歩だが、それ故に、ジャパニーズウイスキーを名乗れる品質まで各蒸留所が耐えうることは簡単なことではないと思う。やっぱり企業間競争を超えた文化的な輪のような空気感がないと厳しい。法整備化が進まないのもおそらくジャパニーズウイスキーの品質や世界的評価は誰しもが知ってはいるが、ウイスキーが根付く土壌が日本にはあまりないのであろう。日本酒がある以上やはりウイスキーは海外からのお酒というイメージであり、繊細な日本の和食と度数の高いウイスキーがマッチするかと言われればそうではない。もちろんハイボール等、多様な飲み方ができるのが特徴だが、その特徴が故に日本人にとってウイスキーは好きな人が飲む趣向品であることに変わりはない。 ネガティブな方向に話が流れたが、個人的にはウイスキーは大好きだし、もっと世の中に浸透してほしいと思う。改めて本書は入門であり必読書である。満足度の大変高い一冊だった。