LGBTQ+ 性の多様性はなぜ生まれる?

LGBTQ+ 性の多様性はなぜ生まれる?
LGBTQ+ 性の多様性はなぜ生まれる?
小林牧人
小澤一史
恒星社厚生閣
2024年6月3日
1件の記録
  • 生物学的アプローチからLGBTQについて解説している(おそらく)稀有な本。文字が大きいし読みやすい文体だし100pちょっととコンパクトだし、その割にちゃんとしているのでとても良い。 生物学とジェンダーと聞くと、保守的な進化生物学者が男女二元論を訴えがちという偏見から身構える部分もあったが、全体を読めば(リベラルな観点からも)常識的なことを言っているように思う。 何やかんやでジェンダー論の教科書を読んだことがないので、社会学の教科書で本当に生物学的な説明をしていないのかは知らないが、これまで読んできたなかではシス男女の性差に関するモザイク脳仮説の本以外で自然科学的な本を見たことがなかったのでとても学びになった。 著者は魚類の生理学の専門家なので、(隣接的)雌雄同体の魚の紹介から始まる。ヒトの脳の専門家ではないものの、おそらく標準的な理解である心=脳の性(身体の性=【遺伝的性(性染色体のXX/XY)や生殖腺・生殖器官の有無】とは区別される)は胎児の時点で決まり、その後原則としてヒトにおいてはひっくり返ることはないとする。そして脳の性の構成要素がジェンダーアイデンティティと性的指向、そして性周期(生理の周期を司るシステム)に分けられ、多くの場合はこれらがシスヘテロ男女と一貫した形で決定するものの、胎児期のホルモンの分泌や遺伝子の影響など(完全に解明されてはいないようだ)によって、トランス/ホモセクシュアルな脳の性が実現することがあると整理している。 これはジェンダーアイデンティティが発達や年を経ていくにつれて変わることと矛盾するようにも思うかもしれないが、(勝手な理解では)主観的に自分をどう捉えるかが社会経験や知識によって変わったり、あとは魚の場合は脳の神経回路をそもそもオスメスどちらももっていて、それが切り替わることでタイミングによって雌雄が変化するケースがあるので、人によっては途中で切り替わりや併存的な状況が生まれるのではないかとしている。つまり、原則として神経回路および脳の性は胎児期に完全に決定するが、そもそも神経回路が2つある(どういう状況かはよくわからないが)だとか、ノンバイナリーな回路だったりだとかの場合には途中で性的自認が変化するのではないかということだ。 この神経回路は後天的に変わらないという仮定がヒトのケースで実際に当てはまるかはやや論争的な箇所で、出生以降の影響も指摘されている (というかそもそもどの神経細胞?が脳の性を決めているのか明らかになっていないと思われる)ので少し言い切りすぎかもしれない。 神経科学や脳科学、生物学は別にすべてを明らかにしているわけではないので、これはあくまでも生理学をやっている著者にとっての標準的な考えであるとは思うが、まあこのように理解しても差し支えないと感じた。また生物学的二元論というのは、定義が人によって異なるわけだが、(保守的な価値観の人にとって)一般には性染色体や生殖関連の機能に基づいて"客観的に"定められているとされる。しかし、実際には脳の性まで踏まえれば二元論は必ずしも正しくない。もちろん生物学では(ヒトの)性別二元論は標準的な姿勢なのだと思うが、これは生物学が統計的な学問であり、あくまでも平均に基づいてマジョリティを対象としているからだということを著者は述べている。 またジェンダーロールをどのように引き受けるか、引き受けないか、(脳や能力、性格の)男性性や女性性も多数のバイナリー変数の組み合わせにすぎないと見ることもできるため、その意味でも二元論的な分け方を社会構造に埋め込むことの是非は問われるべきであろうと思う。 なお、時たま社会学を腐すような発言がないでもなく(悪気はなさそうなので被害妄想かもしれない)、また文献紹介で評価している引用から見るに、構造的差別という問題意識があまりないようにも見えるため、ジェンダー論に詳しいとそこが気になるかもしれない。(まあ、過激な活動が正義を押し付けてもマジョリティ側から反発を食らうだけだというリアリズムなのかもしれないが...) また性はグラデーションやスペクトラムということには批判的で、そうではなくモザイクだということを重視している。これはいくつかの変数をどのように並べるかや、スペクトラム、グラデーションという定義の仕方次第で整合的に解釈できるはずなので、余計といえば余計。厳密さを求める科学者の態度といえばそうかもしれないが、途中で何度か挟まるので気になる人は気になるかも。最後まで読めばこの意味は明確になるし、全体として良い本なので気になっても我慢して読み通す価値がある。
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