パレスチナに生きるふたり ママとマハ

パレスチナに生きるふたり ママとマハ
パレスチナに生きるふたり ママとマハ
高橋美香
かもがわ出版
2023年1月20日
1件の記録
  • パレスチナのビリン村に暮らすバスマさん(ママ)と、ジェニン難民キャンプに暮らすマハさん。 彼女たちの日々の「いとなみ」が、同じ目線に立って撮影した美香さんの写真を通して、生き生きと描かれている。 印象に残っているところを挙げればキリがないが、マハさんの息子の親友たちが、侵入してきたイスラエル軍の兵士に射殺されてしまった後、みんなでオリーブの木を庭に植えるところが特に胸に刺さった。 最初、息子さんたちはやる気なさげだったけれど、美香さんがひとりでやっているのを見て手伝うようになり、だんだん積極的になっていったと。 「ここでは、あまりに簡単にひとの命が奪われていくから。」という言葉も、ズシンと心にのしかかる。 小さい頃からずっと一緒に過ごしてきて、いつもみたいに他愛のないことで笑い合っていても、明日突然命が奪われるかもしれない。逮捕され、連行されるかもしれない。 何事もなくその一日を終えてほっとしても、翌朝また祈るようにして大切な人の無事を願う彼女たち。 命がいつ奪われてもおかしくないような環境がすぐそこにある日々を、パレスチナの人たちはもう何十年も過ごしている。 それが、昨年からイスラエル軍による侵略と虐殺が加速し、オリーブの木を植えるという安らぎすら、パレスチナ人から奪ってきた。 それどころか、殺された人たちは、この本に書かれているマジドさんやハムザさんのように、ひとりひとり名前のある人間だった。なのに、何万人という死者数の一人にカウントされ、しかもその数は増え続けている。 こんなに長い間不条理が続いてきたのに、なんでパレスチナのことを昨年まで何も知らなかったんだろう。と、自分自身に愕然とするし、諸国の多くの為政者が、今に至ってもパレスチナを見ていないという事実に、頭がクラクラする。 ただ、バスマさんとマハさんのことを、この本を通して知れたのは本当によかったと思う。 「いつか会ってお茶を飲みたい」というふたりの願いは、残念ながら叶えられることはなかった。けれど、ささやかな「いとなみ」を紡いできたふたりの喜びや哀しみは確かにそこにあったし、故郷で穏やかに過ごせるようにと願う気持ちは、ずっと消えないと思う。 大切な人を想い、ただ故郷で穏やかに暮らしたいと祈るパレスチナの人々。 そんな人たちがなぜ殺されなければならないのか。なんで欧米諸国や日本は、沈黙するどころか、むしろイスラエル軍に手を貸しているのか。 本当に、もういい加減にしろ。人を殺すな。パレスチナを殺すな。
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