精選女性随筆集 石井桃子 高峰秀子

2件の記録
- noko@nokonoko2025年8月17日読み終わった借りてきた心に残る一節ある日、そのころの食事ともいえない食事のあと片づけをしながら、流しの上の窓から外をながめると、木々はみどりで、みどりをすかして見る空がほんとうに美しかった。そのとき、私は、自分のからだが、木々と私との間の空気とおなじに透明になっていくような気もちになり、その透明なからだのなかの心臓からの泉のようなものが、こんこんと流れだしているのに気づいた。私は、どのくらいかのあいだ、死んだひとや生きているひとたちをだいじにしなければもいう思いに打たれて立っていた。 二、三年まえの夏のおわり、私は姪といっしょに、山の一軒家でいく日かをすごした。そして、姪は「おばさん、気をつけてね。」といって、先に帰っていった。私は、二、三日ほど残って、家を片づけて帰る予定だった。雑巾がけをしたり、ごみを燃したり、あたりの枯れ枝をまとめたりしているうち、不意に、あのしいんとした感じが私を包みはじめた。それは、まわりの木々から、あたり一帯の森から私を目がけて迫ってきた。私の体内は生き生きとなり、そのなかで、私はひたすら、姪のしあわせーいや、そのほかのすべてのもののためをねがっていた。 私は、自分はひとりぼっちでいるほうが、いい人間になれることを考えて、おかしくも思ったが、それは、うそいつわりのない事実であった。(「ひとり旅」石井桃子) 高峰秀子さんの人生は壮絶だった💦