土と兵隊/麦と兵隊

土と兵隊/麦と兵隊
土と兵隊/麦と兵隊
火野葦平
社会批評社
2013年5月16日
1件の記録
  • 『土と兵隊』には杭州湾敵前上陸記、『麦と兵隊』には徐州会戦従軍記という副題がつけられている。発表されたのは『麦とー』が先であるようだが、出来事の時系列は本書に収録されている順序が正しいようだ。どちらも著者が戦地で殴り書きで記した日記をもとにしているそうだ。 『土と兵隊』では、泥まみれの畦道を、敵軍の銃弾を浴びながら行軍する語り手と仲間たちが描かれる。初めての大陸への不安と期待、ぬかるみでの七転八倒を続けながら、仲間との連帯感が生まれていく。 『麦と兵隊』では季節が変わり、農民たちが育てた一面広がる麦畑の中で、方向感覚を失いながら徐州陥落に向けて奔走する姿が描かれる。 兵士たちの素朴な性格や一喜一憂、激しい戦闘での束の間の休息。ルポルタージュでありながら、ついつい著者の目線で日本軍に感情移入してしまうところに、本書の魅力があるのだろう。発表された当時は日本でもベストセラーになったという。 しかし、彼らが食べているもの、一晩を過ごす宿はほとんどが地元の村人から奪ったものであり、すでにもぬけの殻になっているとはいえ、(少なくともその時点で)略奪に何の良心の呵責も感じていないことには怖さを感じる。 著者自身も本来憎むべき敵軍が自分たちと同じ顔をしていることに困惑を隠せない場面も描かれている。とはいえ登場人物すべてがこの戦争を肯定的に捉えざるを得ない、その社会の空気にすっかり飲み込まれている様子は、読者に重い読後感を残す。 あとから振り返れば重大な戦争犯罪に手を染めていても、その真っ只中では抗うことが困難であり、後悔先に立たずとは本当にその言葉の通りだと実感する。 戦後しばらくして火野葦平が自ら死を選んだ理由について、もう少し考えたいと思った。
    土と兵隊/麦と兵隊
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