いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう1

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう1
いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう1
坂元裕二
河出書房新社
2016年2月26日
2件の記録
  • 読書猫
    読書猫
    @YYG_3
    2025年5月9日
    (本文抜粋) "「わたし、こんなに桃の缶詰持ってる人はじめて見た。これだけであなたのこと好きになる人いると思うよ。ねえ、東京ってひと駅ぐらいなら歩けるって本当?」 「本当です」 「嘘だ」 「三駅ぐらい歩けます」 「(関西弁で)嘘言うな。三駅って、選手やん」 「選手じゃないです」 「競技やん」 「競技じゃないです。三駅歩く競技ないです」" "「前は、朝電車で仕事行ってたんですけど。何日かに一回、何日かに一回なんですけど、人身事故がありましたってアナウンスがあって。人身事故って、そういうことじゃないですか」 「うん……」 「そういう時、隅にいた人が、普通の人が、ちって舌打ちするのが聞こえるんです。電車何分か遅れるから。そういうの聞いた時、なんか、よくわかんないけど、(胸元を押さえ)よくわかんない気持ちになります」 「うん……」 「そういうこと、そういうのに似たことが毎日少しずつあります。いろんなことにあります。自分のことで精一杯だし、どうしようもないから、まあ、気付かないふりしてるんですけど、こっち出てきて、六年経って、ずっと、(胸元を押さえて)よくわかんない感じがあって、なんか……(苦笑し)上手く話せないな」" "「好きな人なんでしょ?」 「……優しい人です」 「……」 「仕事も頑張ってて、尊敬出来て……」 「(関西弁混じりに)好きってそういうんじゃないよ」 「(少し苛立って)何で……」 「説明するんは、好きって言うんとはちゃうよ」" "「電話だと勇気が出なかったのでメールします。あのね、わたし、練にたくさん嘘をついてました。広告代理店っていうのは本当だけど、練に話してたような仕事はしてません。わたしの仕事はデスクの事務です」 「勤務表を整理したり、領収書を集めて仕分けしたり、企画会議には呼ばれない仕事です。みんなから親しみを込めて、日陰さんと呼ばれています。何故か小学校の時から続いているあだ名です」 「練に会いに行く時、わたしは駅のトイレで着替えています。トイレの鏡でお化粧をしています。日陰さんから日向さんに変身します」 「わたしの父も経理の仕事をしていて、母は専業主婦でした。わたしたち家族はファミレスに行くと、大抵順番を飛ばされました。同級生が、父と母の笑顔を見て、何かのアニメのねずみの笑い方に似てるねと言いました。わたしは人前で笑うのをやめました」 「東京の大学に入って、男性と付き合いました。彼は自分の友人にわたしを紹介しませんでした。はじめて寝た後、彼が言いました。お腹すいたからおにぎり買ってきてよ。一生こうなんだろうなと思いました」 「わたしは新しいペンを買ったその日からそれが書けなくなる日のことを想像してしまう人間です。誰にとっても特別な存在になれないのなら、はじめからそのつもりで付き合えばいい。そうして出会ったのが、今の恋人なんです。何も期待せず、望まずにいられる関係」" "「夢って大変なものなんだよ。面倒臭いし、鬱陶しいし、捨てようとしても捨てられない、もつれた糸みたいに心に絡んで取れなくなる、それが夢」" "「向いてないのぐらい知ってるよ。何でもいいから違う自分になりたいんだよ! どこにでもいる子になりたくないんだよ!」 「どこにでもいる子になりたくない子ってどこにでもいるよ?」" "「……東京は向いてないって思うんです。ウチに帰っても帰った気がしません。自分の部屋なのに、来てる、気がします。俺が帰るのは猪苗代湖の家で、ここは、って」 「うん」 「まだ帰れない理由があって、今はまだここにいます」 「うん」 「(胸に手を当てて)ここに、でかい、でかい穴が開いてる気がします」 「うん」 「開いたまんま、そうやって、東京で、五年経って」 「うん」 「そうやって……杉原さん」 「うん」 「あなたを好きになりました」 「……」 「好きで、好きで、どうしょうもないぐらい、なりました」 「……」 「いつもあなたのことを思っています」 「……(涙が浮かぶ)」 「それを、そのことを、諦めなきゃいけないのは」 「……」 「苦しい」 「(涙を溜めて)……」 「杉原さん。今日まで冷たくしたこと、ごめんなさい」 「(首を振る)」 「明日からまた同じことします」 「……はい」 「ごめんなさい」 「はい」 「ごめんなさい。好きでした……」" "「わたし、一度人を好きになったら、なかなか好きじゃなくならないんです」 「……」 「好きになって欲しいから好きになったんじゃないから。それが片思いでも、同じだけ好きなままなんです」" "「わたし、ちゃんと好きになりました。短かったけど、好きになった。好きだったらそれで良かった。それがすごく嬉しいんです」 「そう」 「ずっと、ずっとね、思ってたんです。わたし、いつかこの恋を思い出して、きっと泣いてしまう。って。わたし、わたしたち今、かけがえのない時間の中にいる。二度と戻らない時間の中にいるって。それぐらい、眩しかった。こんなこともうないから、後から思い出して、眩しくて、眩しくて、泣いてしまうんだろうなって」" "「東京の人にも、俺のごと知って貰えだ。その人だちはたぶん、会津って聞いだら、俺のこどを思い出してくれっと思うんだ。会津。あー練の町か。そう思って貰える。俺はそれが嬉しんだ。東京のあの人。会津のあの人。行ったごとねえとごに知ってる人がいる。住んでる人のこどを考える。今、東京でなんかあったら、俺は友達の心配をする。みんな、そうやって人に会って、人のこどを思って生きてる。そう言うのが嬉しんだ」 「そうか」 「東京が嫌いだった時は会津さ帰らんにって思ってだ。今は東京も好きだから、会津さ帰っでこれる」 「庭みだいな畑しかねえぞ。儲がる仕事もねえぞ」 「何年かがってもいい。何十年かがってもいい。またじいちゃんと畑に出る」 「んだら、早ぐ寝で、早ぐ起ぎろ」 「(頷く)」 「こごで生ぎんなら、種ひとづ蒔ぐとごろからはじめんだ」"
  • na
    @p_o07
    2025年4月18日
    いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう1
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