

読書猫
@YYG_3
にんげんのことばやくらしをまなぶために本をよんで、すきな所をきろくしています。
さいきん、肉球でページをめくるのがうまくなってきました。
2025/3/7-
- 2025年7月12日初恋の悪魔 2坂元裕二読み終わった読み直した(本文抜粋) “「口では諦めたとは言っていたが、一度好きになった人をひと月経たずに忘れられるはずがない」 「……参考までに聞く。一般的にどれくらいかかるものなんだ」 「長い場合は一生」 「……」 「短くて、半年は泣いて暮らす」 「……参考までに聞く。それを簡単に治す方法はないのか」 「ある。別の人を好きになることだ」 「別の人を好きになる。もしその人とも駄目だった場合はどうする」 「また別の人を好きになる」 「無間地獄じゃないか」“ ”「わたしは弁護士として、そして今小説家としても考えました。人なんて一度刺せば死に至ります。その上で人を十九回刺せる人間とはどんな人間なのか。どんな食べ物が好きなんでしょう。食べログの点数は気にするでしょうか。目玉焼きはソースでしょうか、醤油でしょうか。エコバックは持ち歩きますか。マンションの住人に挨拶はしますか。SNSに人の悪口は書きますか。どれほどの憎しみがあれば出来るんでしょう、どうですか、人を十九回刺せますか」“ ”「人生で一番素敵なことは、遠回りすることだよ。だからわたしたちは悲しくない。遠回りしてる今が一番素敵な時なんだよって」“ ”「お願いする前にお願いがあるんですけどって聞くのは、お願いの強要だよ。冗談だよ。何?」“ ”「面白くなんかありません。退屈な人間です。人を殺す人間の気持ちなんてこれっぽっちもわからない、ごくごく普通の当たり前の人間です」 「子供には未来がある。その未来を奪う権利は誰にもない。そんな当たり前なことを思う人間です。この人には大事な家族がいる、大事な友達がいる、だから命を奪ってはいけない。そんな当たり前な約束を守ってる人間です」 「だからと言ってね、犯罪者が特別な人間だと思ったら大間違いですよ。孤独だとか恵まれないだとか恨みだとか心の闇だとか、そんなものは誰だって持ってる。人を傷付けていい理由にはならない。殺していい理由にはならない。人殺しは特別な人間じゃない。かわいそうなのは自分だけだと思ってる愚か者だ。自分のことが大好きでしょうがない馬鹿者だ。人を傷付けたら駄目なんだよ、馬鹿者。人を殺したら駄目なんだよ、馬鹿者」“ ”「世界中、たくさんの暴力はあるし、悲しいことはあって、僕が生きてるうちにそれがなくなることはないかもなって思います」 「うん」 「でもね、人に出来ることって耳かき一杯ぐらいのことなのかもしれないけど……あ、すいませんこんな話」 「(首を振り)耳かき一杯」 「いつか、いつかね、暴力や悲しみが消えた時、そこにはね、僕の耳かき一杯も含まれてるんだと思うんです。今目にすることは出来なくても、大事なことは世の中はよくなってるって信じることだって」“
- 2025年7月11日初恋の悪魔 1坂元裕二読み終わった読み直した(本文抜粋) “「人間からお風呂とお布団を奪ったらどうなる?」 「殺し合う」 「ガンジーだってナイチンゲールだってお風呂とお布団がなかったら人を愛せなかった。今すぐあの人にお布団とお風呂を返してあげなきゃ駄目なんだ」” “「……前の日、兄から電話あったんですけど、自分、出なかったんですよ。次の日兄が死んだって聞いて、思いました。またやらかしちゃったな。昨日電話出なかったから、兄ちゃん死んだんだな。って。兄と話すと、自分のしょうもないところ、駄目なところ思い知るだけだから、無視してたんです。欲しいものを手に入れた人と手に入らなかった人がいて、一番欲しいものが手に入らなかった人は、もう他になんにも欲しくなくなってしまう。あ、僕はもう十分なんで、結構です結構です、僕はこれでいいんで、満足なんで。みなさんで楽しんでください。顔はね、笑ってるんです。でもそんなの上っ面で、心の中じゃ、心の中では……」 「俺を笑うな。俺を馬鹿にするな。俺にアドバイスすんな。俺に偉そうにすんな。もっと俺を尊敬しろ……(また笑みを浮かべ)そういうね、ひん曲がった奴だから、兄は死んでしまって……」” “「真淵くん、君は優しい人だけど、そういうことを言ってはいけないよ。普通という言葉に恐れを抱き、おびえてしまう人間は存在するんだ。目の前にいる人が今にも、あなた変だよ、なんか気持ち悪い、そう言い出すんじゃないかと思って存在を消してしまいたくなる人がいるんだよ。オクラホマミキサーを踊った時から何年経っても何十年経っても、それは変わらない。たとえどんなカテゴリーに入っても、そこでの僕は変わり者なんだ」” “「ま、ないものねだりって言うけどさ。普通の人とか、特別な人とか、平凡とか異常とか、そんなのないと思うよ」 「そうでしょうか」 「ただ、誰かと出会った時にそれが変わるんだよ。平凡な人を平凡だと思わない人が現れる。異常な人を異常だと思わない人が現れる。それが人と人との出会いの、いい、美しいところなんじゃないの?」” “「俺、好きな人いるんで」 「きっと絵で出来てる人よ。絵でしょ、絵を集めてるのよ」 「絵を好きになっても、絵は好きになってはくれないぞ」” “「僕が大丈夫だったことは一度もありません。そういう意味で大丈夫です。失礼します」” “「人は人。自分らしくしていればね、いつか未来の自分が褒めてくれるの。僕を守ってくれてありがとう、って」” “「大事なことは体全部でおぼえる。それが生きることなんだなって思う」”
- 2025年7月11日聞く技術 聞いてもらう技術東畑開人読み終わった読み直した(本文抜粋) ”なぜ僕らの社会は話を聞けないのだろうか。“ “問題は言葉の中身にはありません。そうじゃなくて、二人の関係性に問題が起きています。二人の間に不信感が飛び交っていて、関係がこじれている。だから、何を言っても聞いてもらえません。” “孤独には安心感が、孤立には不安感がある。” “カウンセリングって本当に不思議なんです。 目の前に生きた人がいて、その人と向かい合っていると、冷静に考えたらわかるはずのことがわからなくなってしまう。人間の迫力みたいなものに飲み込まれてしまうんです。 これは多分、カウンセリングに限らなくて、人間関係というものに宿る魔力なのだと思います。人間関係に巻き込まれているとき、僕らの知性は普段とは違うように動き始めます。” “本当に気持ちがこもった言葉は、こちらの心を動揺させるものです。”
- 2025年7月10日読み終わった(本文抜粋) “「なんて言ったらいいんやろ。マジやで。私な、ほんまは小西くんのことアレやねん。アレ。言わんでもわかるやろ? 恥ずかしくて言われへんわ。この雰囲気の感じ。まあにそれやん。ずっと前からそうやってん。これ伝えるのってめっちゃ緊張するし、しんどいし、恥ずかしいし。一番恥ずかしい。恥ずかしいせいで何かを逃すってめっちゃもったいないよな。とにかく恥ずかしくて、だからこの気持ちバレへんようにしててん。この前、小西くんから『さっちゃんさまー』って電話かかってきたとき、めっちゃ嬉しかったもん。力になれたことが嬉しかった。私、あのときちょっと変なテンションじゃなかった? 早い話、はしゃいでてん。アホやろ。私な、もし小西くんがこの気持ちを少しでも知ってたら、その人の子好きにならんかったかなって思ったら、めっちゃ後悔して。さっき掃除中、ずっと後悔。その後悔を掃除したかったわ。……今、こんなんいらんか! ごめんごめん。こんなときになんかふざけてまうのもアカンのやろな。だって気まずいやん。気まずいっていうことがまた気まずさ生むよな。あーぁ。1週間前に言えば良かったわー。その人と仲良くなる前に私の気持ちを少しでもわかって欲しかった。今さら突然やめてーなって思ってるやんな? ごめんな。あ! でも私、小西くんとその好きな人が付き合って欲しいってほんまに思う。小西くんって女々しいとこあるやん。だから隠しすぎも良くないってことを知って欲しくて。私みたいになるで。あと、ざっくばらんに仲良くなりすぎも良くないんかも。もし、私らの会話がもう少しぎこちなかったら色恋沙汰もあったんちゃうかなって。色恋沙汰って変な言い方か。でもこれは言い訳やな。私は一方的にアレやって、でも小西くんは私のこと1ミリもそうじゃないし。これは嫌味でうてるんじゃなくて。ほんまに、その人とばれてしいねん。だから、教材的に私をてくれたらいいなってって。教材的にな。教科書やとって。そもそもなんで小西くんのことなんやろって考えたら理由なんて特になくてな。人を嫌いになるは理由ってあるけど、好きになるときは理由なんてないし、いらんやん。あ、小西くんのたは好みかも。私が今、小西くんのことをってうてるのは、きってしいからうてるんじゃないねん。それはほんまに信じてしい。むしろ、もし、り得けど今、小西くんが私とき合うってってくれたとしてもるもん。ほんまに。強がりとかじゃなくて、ほんまに小西くんがその人とばれてしいからうてるねん。私、『』とか、そんなんじゃないで。そんな綺麗事ではおさめられへんわ。やっぱ好かれたいよ……の前にいる女々しい人に。なんやろ? ただ、参考にしてしいねん。私の失恋を。失恋ってうたらいな。私の事例を。事例ってなんやねん! ほんまに今、小西くんを口説きとそうとかってうてるんじゃないから。いたいことは、好きな人と仲良くなりすぎてもアカンし、気持ちをしすぎてもアカンってこと。突然、告白なんかされたら、びっくりする気持ちがk。に今、小西くんびっくりしてるやろ? 私の頭がおかしくなったんちゃう? とすらってるんちゃう。だから私みたいな告白はアカン年で。だから教材にしてってうてる。ってか、これ告白じゃないから。うとたかっただけやねん。なんやねんいまさらって感じやんな。ほんまごめん。ほんま突然ごめん。ほんまその好きな人とってしい。私を失敗例やとって。こんなタイミングで告白したらダメ、こんな方法で告白したらダメ、まぁこれは告白ちゃうけど。こんなたくさんの言葉で告白したらダメ。もっと端的に! 長々うたらアカンで。私みたいに同じこと何回もうたらアカンで。シンプルやで! 単純にあの言葉だけを伝えたらいいねん。でもなー、がなかったらあの言葉は伝えられへんわ。やっぱりあーだこーだ言ってからじゃないと、あの言葉は伝えられない。だってめっちゃ重い言葉で、めっちゃ恥ずかしい言葉。読み方を変えて言うたろかな。小西くんを、こ、の、き、ってこと。もうわかったやろ? ってかすでにわかってたか。ってか、今の言い方、気持ち悪かったな。ってか、今まで私の気持ち、気付かんかったん? 小西くんが遅刻した日も心配したし、転けただけで、私、救急車、呼ぶとかアホやん! 心配しすぎやん。それでも私の気持ちに気付かないって鈍感すぎるで。小西くん、にぶすぎんねん! 腹たつわー。……ごめんごめん。ほんまごめん! 今の忘れて。私、何が言いたいんやろ。あっ、ほんまに告白するなら、単純にあの言葉だけでええねんで! あ! なんやったら、その子に告白するときにこっそり覗き見してチェックしたろか? どうする? っていらんか! ほな、教材は帰ります! 今帰られたら、次会うとき気まずいやんって思ってるやろ? 大丈夫やで、私めっちゃ普通にするし。ほんで、せめてなんか言わせてって思ってるやろ? でも結局、何言うたらいいかわからんやろ? 言葉見つからんやろ? 心ここにあらずやろ? だってさっき街灯の周りを飛んでた蛾見てたやろー。気付いてるで! 怒ってるわけちゃうよ! でも私、知ってるから! 小西くんが私に全く興味ないこと。だって、小西くんって私の名前知ってんの? なんで、さっちゃんっていうか知ってるん? 私は小西くんのフルネーム知ってるで。小西トオルやろ。徹夜の徹で、トオル。いつやったかな? 私が小西くんに『そういえばフルネームなんなん?』って聞いてん。ほな、小西くん、『小西徹』って教えてくれてん。でも私の名前聞き返さへんかってん。このとき、小西くん、ほんまに私のこと興味ないんやなって思った。私の苗字も名前も知らんやろ? 小西くんにとったら、私は、さっちゃんでしかないんやろ? ごめん。めっちゃ悲しいわ。なんか私、無茶苦茶じゃない? 一方的に小西くんを好きになって、困らせてるって。でも一つだけお願いやねんけど、今の私を迷惑やと思わんといてな。さすがにそれはツラいかも。失恋よりツラいわ。だから失恋いうたら重いよな! ……ってか私はなんでいつもこうなんやろ。その場の流れに身を任せてしまうというか、楽するというか、小西くんとの仲の感じが楽やったから、流れを変えずにこのままいったろ、みたいな、これがアカンかったんやろな。私いつもこうやねん。高校入学したときもさ、最初のクラスで一人ずつの自己紹介あるやん。あのときもさ、名前とか入る部活とか趣味とか言うやん。『趣味は音楽を聞くことです』って私、胸を張って言える趣味があるのにさ、私の前が5人連続で『趣味は特にないです』って言うたからさ、私さ、『趣味は特にないです』って言うてもてん。ヤバくない? もうほんまに、これだけのことが悔しくてさ。今後、絶対に流れに身を任せへんって決意してたのに、結局またこれやん。小西くんとの仲の感じに身を任せてた。ってか、私、なんの話してんねん。自分の話をしすぎよな? ごめんな。ってか、こうゆう謝罪はダルいよな? ごめんな。私、普段、女々しくないのに、こうゆうことはアカンはわー。うわー。私また返事しにくいこと言うてるやん。ほんまごめん。なんでやろ? ……伝えたい言葉は一つだけやのに、めっちゃ長くなってる。……でもありがとう。あ! スピッツの『初恋クレイジー』、もう聴かなくていいよ。なんか恥ずかしいわ。聴かれるの。私の歌ちゃうけど。普通に考えたら、私が携帯で聴かせたらいいだけやのにな。ただ、私がいないところで、私のこと思い出して、聴いて欲しかっただけ。もう小西くんのこと好きちゃうから安心して! 好きになってごめんな。あっ、好きって、言うてもうてるやん。さりげなく言うてもうてるやん。ん? すでに何回か言うてもうてたかも。まぁええわ。ほんまに小西くんのこと好きでいて、楽しかったかも! 寝る前とかウキウキできたし。あ、ご飯ご馳走してくれる約束、もういいからね。具体的な日を言うてくれへん買ったから、実現しないってわかってたし。ご飯に2回も行ってくれるって適当な約束やめてや。せっかく行く店も決めたのに。あと、私たちって<めめ湯>でしか会ったことないやん? だからご飯行くってなったら『なんか照れるかもな』的なこと言ったやろ? あんなん言わんといて。なんか期待してもた……あー、ほんまなんかこんな自分が嫌やわ。ごめん! 私、何言うてる? 私が文句を言うのは違うわ。家向こうやろ? 帰ってええよ。私、次会うときほんまに普通にするから安心して! 気まずさゼロにするから! 私、サークルに忙しくて再来週までバイト入ってないし。10日以上入ってないし。タイミングええよな。こうゆうことだけ……まぁそれだけ時間あれば普通にできるし。絶対気まずくないから。信じて! 安心して! ほな、私から先に帰るわ! バイバイー!」 「え?」“
- 2025年7月10日大豆田とわ子と三人の元夫 2坂元裕二読み終わった読み直した(本文抜粋) “「ダメな男トレーディングカード作れそうだね」 「作れます。ファイルケース、トレカでパンパンなります」“ ”「ほら、ちょっと余裕があって、一緒にいて楽な人っているでしょ? しかもこっちの話を何時間でも口挟まずに聞ける人」 「最高じゃないですか」 「って思ってたんだけど、そういう人って結局、人のことをただ面倒くさがってるだけなんだなって」 「その人が優しいのは、優しくしておけば面倒くさくないからなんだよ。一緒にいて楽しいのは、その人にとって、人間関係はサービスでしかないから」“ ”「いや、その人はただ、自分を上手く出せないっていうか、上手く言葉に出来ないだけで……」 「はい出た、言い訳の第一位、言いたいことの半分も言えなかった」 「言えたことですよ、言えたことだけが気持ちなんですよ」“ ”「あのね、過去とか未来とか現在とか、そんなのどっかの誰かが勝手に決めたことだと思います。時間って、別に過ぎて行くものじゃなくて、場所っていうか、別のところにあるんだと思います。人って現在だけを生きてるんじゃないと思う。五歳、十歳、二十歳、三十四十、その時その時を人は懸命に生きてて、それは別に過ぎ去ってしまったことなんかじゃなくて。あなたが、笑ってる彼女を見たことがあるんだったら、彼女は今も笑ってるし、五歳のあなたと五歳の彼女は今も手を繋いでいて、今からだって、いつだって気持ちを伝えることは出来る。人生は小説や映画じゃないもん。幸せな結末も悲しい結末もやり残したこともない。あるのは、その人がどんな人なのかってことだけです」“ ”「逆にさ、夫婦なんて、強いとこじゃなくて、弱いとこで繋がってるものなんじゃないの?」“ ”「どうしてだよね。家族を愛してたのも事実。自由になれたらって思ってたのも事実。矛盾してる。でも誰だって心に穴を持って生まれて来てさ、それを埋めるためにジタバタ生きてるんだもん。愛を守りたい。恋に溺れたい。ひとりの中に幾つもあって、どれも嘘じゃない。どれもつき子。結果はね家族を選んだってだけだし、選んだ方が正解だったんだよね」“
- 2025年7月9日大豆田とわ子と三人の元夫 1坂元裕二読み終わった読み直した(本文抜粋) “「みんなとカレーパンを食べられないなら社長になんかなりたくなかった」” “「とわ子はどっちかな? ひとりでも大丈夫になりたい? 誰かに大事にされたい?」 「ひとりでも大丈夫だけど、誰かに大事にされたい」” “「いちいち離婚したっていう必要あるかな。お寿司食べる時にいちいち、死んだ鮪美味しい、死んだ海老美味しいねって言う? 言うかな?」” “「スポーツの世界の一番は勝った人じゃないよ。金メダル取った人でもないよ。グッドルーザー。負けた時に何を思ったか、何をしたかで、本当の勝者は決まるんだよ」” “「実は、僕の心の引き出しにはね、まだしまったままの人がいて」 「常に出しっぱなしに見えますけど」” “「ま、そもそも気が合うっていうか」 「その何が問題?」 「グアムに住んでる人がサイパンに旅行行くか?」” “「でも、そうかな。離婚に勲章も傷もないと思うんですよね。そういう風に考えない方が門谷さんも幸せだと思います。確かに色々あっての結果ですけど、わたし自身今楽しくやっていますし、なんだったらなかなか面白い人生だなって思ってます。別れた人たちだって幸せでいて欲しい。失敗なんてないんですよ。人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」”
- 2025年7月7日児童養護施設 施設長 殺害事件大藪謙介,間野まりえ読み終わった
- 2025年7月4日とっぱらうジェイク・ナップ,ジョン・ゼラツキー,櫻井祐子読み終わった
- 2025年7月2日読み終わった(他文献からの引用) “美しい書物はどれも一種の外国語で書かれている。 マルセル・プルースト「サント=ブーヴに反論する」” “ある言語で小説を書くということは、その言語が現在多くの人によって使われている姿をなるべく真似するということではない。同時代の人たちが美しいと信じている姿をなぞってみせるということでもない。むしろ、その言語の中に潜在しながらまだ誰も見たことのない姿を引き出して見せることの方が重要だろう。そのことによって言語表現の可能性と不可能性という問題に迫るためには、母語の外部に出ることが一つの有力な戦略になる。もちろん、外に出る方法はいろいろあり、外国語の中に入ってみるというのは、そのうちの一つの方法に過ぎない。 多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』” “木のようなにおいがしていた。部屋のすみは暗かったけど、ボクは窓を見ることができた。ボクはそこにしゃがんで、スリッパを持っていた。ボクはスリッパを見ることができなかったけど、ボクの手は見ることができ、ボクは夜が来るのを聞くことができ、手はスリッパを見ていたけどボクは自分では見ることができなかったけど、手はスリッパを見ることができて、ボクはしゃがんで夜が来るのを聞いていた。 フォークナー『響きと怒り』” (本文抜粋) “これはあくまでも私見なのですが、多くの読者を惹きつける「ストーリー」はとっくの昔に飽和しており、ほぼ完全にパターン化されてしまっていると思います(だからこそ「指南」が可能になるわけです)。それはそれでいいのだけど、読者が読むことをやめられず、最後まで読み通させる「技術」はストーリーテリングだけではない。物語とは別の、ことば自体の力というものがあると思うのです。” “私はよく「他者の重要性」について語っています。 ここでの「他者」とは、観念的な意味ではなく、文字通りの「自分ではない人たち」のことです。要するに「他人」です。「他者=他人」を書けるようになることこそが「書くこと」を学ぶうえで最重要課題のひとつだと、私は思っています。 この世界に「自分」以外のものが無数に存在しているという事実を、そんなことは当然でしょうと嗤ってスルーせず、あらためてもう一度、何度となく、できるだけ真に受けて考えてみること、それこそが「書くこと」の根元に触れることだと私は思います。”
- 2025年6月11日ぼちぼち藤岡みなみ読み終わった(本文抜粋) "「すみません……この辺で、めちゃくちゃたくさんどんぐりが落ちてるところ知りませんか?」" "「お世話になります。現在ロン毛でいらっしゃいますでしょうか」" "「乾いてるのがミイラで湿ってるのがゾンビだよ!」"
- 2025年6月8日大人の友情河合隼雄読み終わった(本文抜粋) "友人とは、「夜中の十二時に、自動車のトランクに死体をいれて持ってきて、どうしようかと言ったとき、黙って話に乗ってくれる人だ」" "人間はなかなか一人では生きられない。孤独は恐ろしい。自分の存在を認めてくれる人がいることで、人間はどれほど安定しておられるかわからない。" "非常に割り切った言い方をすると、類似性の高さは関係の維持に役立ち、相反性の高さは、関係の発展のために役立つ、ということになるだろう。" "ヨーロッパの中世に生まれたロマンチック・ラブでは、男女が性的に結ばれることは禁じられていた。あくまでも合一したい、という強い願いをもちつつも、それが禁じられていることによる苦しみによって、心が鍛えられ、人格が磨かれる、というのがその根本であった。そこには、隠された宗教性がある、と言っても良かった。至高の幸福は、断念によってこそ支えられる、という知恵があった。" "「秘密」は人間を個別化するための大切な要素である。"
- 2025年6月7日読み終わった(本文抜粋) "気が散りながらだって、速度や質の違いはあれど前進はします。あるいは前進のための心の準備は進んでいるのです。いつになるかはわかりませんが、そのうち必ずエンジンがかかってきます。だから、つくりかけの作品からは、とにかくからだを離さないようにしています。" "人間の頭の中には想像する力の源「想像筋」みたいなものがあって、僕はいつもそれを鍛えるようにしています。やり方は簡単です。何かわからないことがあったら、調べないで一旦想像してみる。これだけ。正解不正解は関係ありません。ただ想像するのです。" "作品が完成するまでの工程の中で「なんとなく」という理由で決まることはひとつもありません。作品は目的があってつくられていくものです。笑わせる、感動させる、思いを伝える。セリフの最後の1文字まで、その目的のために考え抜きます。考え抜けば、必ず正解が出ます。"
- 2025年6月1日マ・エノメーリ藤井隆読み終わった(本文抜粋) “「自分が快適じゃないと人に優しくなんてできない」“ ”人が気になるところはあると思いますが、人と比べるのはボクには刺激が強過ぎて効果が良いほうに働かないので、マイペースで良いので自分が信用してる方からのお誘いには全力でのる、そして自分のやりたいことをやりきれるように、自問自答するよう心がけています。“ ”そろそろこの仕事以外出来ないことを認めようと思う。 やってみたい仕事はあるけど、それは職人さんの仕事だし、簡単に転職出来る仕事ではないのを知っている。“ ”寝る前も幸せです。あたたかい布団より冷たい布団に入ってだんだんあたたかくなっていく方がドラマチックで好きです。“ ”結局ボクは自分から「見て」と湧き出すモノが少ないのだと再確認しました。“
- 2025年5月31日宇宙の果てには売店があるせきしろ(本文抜粋) ”UFOが飛来し、何もせず空き地の上でずっと留まってる。天気の良い日にはUFOの影が空き地にできて、そこで猫が寝ている。私のアパートは洗濯物が乾きづらくなっている。“ ”タイムトラベルカスタマーサービスセンター「過去に戻ることに関することは1を、未来へ行くことに関することは2を、その他は3を押してください」 元の時代に戻れない相談だから……3だな。“ ”宇宙ステーションの売店で、わざわざ売店で買う必要のない鬼滅の刃グッズを子どもがねだっている。“ ”隣の部屋に引っ越してきた人の段ボールが地球の文字ではない。知らない生命体が荷物を念力で運んでいるイラストもある。“ ”銀河鉄道の終点で酔っ払いが寝ている。“
- 2025年5月30日ワーカーズ・ダイジェスト (集英社文庫)津村記久子読み終わった(本文抜粋) “後ろ暗いことはない。何も悪いことはしていない。白状することは何もない。それでどうしてこんなに立っているのがやっとなんだ。“ ”重信は改めて、人間と同じぐらいの寿命を持つ物について考える。自分自身が、iPodや冷蔵庫や自動車よりも長持ちしていることに純粋に驚く。“ ”料理中にもやたら水を注ぎ足してくれる、動作の素早い店主によって出された「スパカツ」は、はたしてひどくうまかった。特に新鮮さや驚きはないのだが、これまでに洋食に対して積み上げられた既視感が熟成された、なんとも言えない多面体の「知ってる」が凝縮されたような味だった。ドミグラスソースに、ウスターソースを少し混ぜていることはすぐにわかるのだが、もうあと一つは死ぬまで考えてもわからないだろう、と重信は一口目で悟った。“ “どうして自分は一人で何とかなってしまえるのだろう。佐藤浩市みたいな上司にもっともらしい言葉をかけられるようなこともなく。“ (「ワーカーズ・ダイジェスト」抜粋) ”後輩の作業を手伝ってやりながら、オノウエさんはいないのだ、ということをふと思い出して手が止まった。サカマキの中で、その不在は膨れ上がり、やがて体全体を覆うように広がった。サカマキはその靄を払うこともなく仕事を続けた。 「おれクソみたいな間違いしちゃって、でも向こうもクソで、でもおれも、ああなんだろうこれ」 「べつにいいだろうなんでも。落ち着けよ」 シャープペンシルを握りしめながら自分自身をののしる後輩に、サカマキは頭を上げないまま声をかけた。 何かが自分に伝播したような気がした。それは、一概に喜ばしいとは言えない面倒くささや責務をまとっていたが、おれは望んで引き受けようとしているのだ、とサカマキは静かに悟った。“ (「オノウエさんの不在」より)
- 2025年5月25日うそコンシェルジュ津村記久子読み終わった(本文抜粋) “工場の塀の前で、見覚えのある作業着の女性が、ゴミ袋の口の方を握り締めて、鎖鎌のように振り回していた。中山さんだった。何をしているのかと息を詰めて見守っていると、中山さんはゴミ袋の底の方を、思い切り塀にぶつけた。また何かが割れる、ガキャンとかビキャという音がした。 何をしているのか。変なことであるのは間違いないのだが、私は自分の疲れ切った部分がぱっと起き上がるのを感じた。 あの人、なんだか良さげなことをしてないか。” (「第三の悪癖」より) “誰かにお茶を出して話を聞くために生まれてきたんならそれでいいわ。” (「誕生日の一日」より) “うそすらついてもらえない(取り繕ってすらもらえない)ぐらいバカにされていることと、うそであしらわれる程度の人間であることはどちらがましなのだろう? この先意見が変わるかもしれないが、本当のことを言われてうんざりしたことが近い記憶としてある私は、後者のほうがましな扱いのように思えた。” “他人にうそをつくことは、それ以前にまず自分にうそをつくという行程を必要とする。それが平気な人もいるし、苦痛な人もいる。吉子さんは苦痛に感じる人だったのだろう。最初はおもしろそうだとゲームにのっても、いざプレイヤーになると、自分がうそをつくのが好きではないことに気がついた。” (「続うそコンシェルジュ」より) “私たちはたぶん似ているけれども、かといって何もできない、と私は思った。けれども、息子が自分の焦燥を誰にも話さず、一人で静かに堪えようとしているのではないかということも感じた。私が満足いくまでべらべらしゃべってくれるわけではないけれども、それはそれで悪いことではないんじゃないのか。” (「通り過ぎる場所に座って」より) “「大事なところをむらさきで書くの、かわいいね」” (「居残りの彼女」より)
- 2025年5月20日サキの忘れ物津村記久子読み終わった(本文抜粋) “いつも谷中さんと菊田さん親子と道が分かれる交差点を過ぎた直後に、千春はどして本を持ち帰ったのかを思い出した。まだ自分が悠太の浮気相手だと知らなかった頃、結婚して子供を産んだら、女の子なら「サキ」という名前にしたいと思っていたのだ。漢字はよく知らないからどんなのでもいい。音が大事だった。他にもいくつか候補があったけれど、「サキ」はそのリストの上の方の名前だった。 でも本を書いたのは男の人だというのが不思議だった。どうせ本は読まないけど、家に帰ったらその男の人の写真をゆっくり眺めようと思った。それでどうするということはない。自分のやることのすべてに意味なんてないのだ、とちはるは高校をやめる少し前からずっと思うようになっていた。だからきっと、何をやっても誰もまともに取り合うはずがないのだ。この本の持ち主の人もきっと。本を持って帰ったと打ち明けたところで、そうなの、とただ言って受け取るだけだろう。千春自身にも特に意図はないのだし。 まともに取り合うって、私がまともに取り合ってもらったことなんて今まで一度でもあったのかな。“(表題短編「サキの忘れ物」より) ”後ろの娘さんと話をするようになってから、お金の話ばかりしてるなと思い始めた。娘さんは、この行列に発生するお金の行き来にものすごく聡いけれども、同時に消費も厭わないようだ。娘さんが「〜が得」とか「〜すると利益が出る」という話はするけれども、「〜が好きで」購入するという話をしないことも特徴的だと思った。“(「行列」より) ”私はその時、彼には大量の情報も記録もいらないのだ、ということを何となく悟った。ガゼルと過ごす、さして多くもない時間こそが、彼には大事なものなのだ。私はそれを邪魔しないようにその場を離れた。彼はやはりガゼルを見つめていた。時間を止めてやれないものか、と私は本当に一瞬だけ、そんなくだらないことを考えた。“(「河川敷のガゼル」より) ”よく覚えているのは、ある日ミニオンの大きなぬいぐるみが、ソファと座卓の間の床にうつ伏せに倒れていた光景だった。べつにそれだけなら、そういう日もあるだろうで済むのだが、仕事が忙しくて一週間以上のぞかないでいた後にまたのぞきに行くと、同じように、ミニオンがうつ伏せに倒れていたということがあった。寸分違わず、と言うと言い過ぎかもしれないけれども、ミニオンは一週間前に見た時とほぼ同じ場所に倒れていたと思う。大丈夫か、と私は思った。それはミニオンに対してもだし、うつ伏せのミニオンを放置している住人に対してもだった。“ ”同い年ぐらいの人、としか言いようがなかった。私より年上にも、年下にも見えなかった。それで自分と同じぐらい疲れているように見えた。私は、ミニオンが倒れたままの部屋のことが頭をよぎるのを感じて、いたたまれなくなった。この人が「内」さんなんじゃないだろうか、と直感した。“ “「つまんなくなんてないですよ。社内は本当に息苦しいから、誰か違う人がそこで生活をしてるんだってだけでよかった。どんな人が住んでるんだろうってずっと考えてたけど、わからなかったです」 「私なんですね、これが」 内さんはふざけたようにそう言って、マグカップをベンチに置いた。失礼ですが、と年齢を訊くと、私より三つ年上だった。私は、もしかしたら答えてくれるのではないかと思って、ミニオンがうつぶせに倒れていた件についてたずねてみた。ずっとうつぶせだったのかと。 「あれね。たぶん当時付き合ってた人と別れたばっかりだったんだけど、その人にもらったものだから、もう持ち上げることすらできなくてね」 あんな軽いものなのに、腕が拒否する感じ、わかりますか? と訊かれて、私はうなずいた。おそらく四週間はあのまま倒れていたと聞いて、思ったより期間が長くて驚いた。“ (「隣のビル」より)
- 2025年5月16日人間臨終図巻(1)新装版山田風太郎読み終わった(本文抜粋) "北村透谷 二十六歳没 妻の美耶子からの知らせで、友人の島崎春樹(藤村)と戸川明三(秋骨)が駆けつけると、透谷の屍骸は、彼らのよく知っている小さな家の暗い部屋に横たえられ、三つになる女の子がそばで遊んでいて、「お父さん、ねんね」といった。" "尾崎紅葉 三十六歳没 それから彼は医者に、モルヒネを大量に注射して殺してくれといい、医者がことわると、 「どうせ命がないものが、悶え苦しんで二時間や三時間生きながらえて何になるものか。そんなことをいうのは、死んだことがないからだ。嘘だと思うなら死んでみろ」 と、昂奮して無茶なことをいった。" "パスカル 三十九歳没 かつて『パンセ』で、 「人間は、死と無知について不可抗なので、幸福になるために、それらについては考えないことにした」 「それまでの場面がどんなに美しくても、最後の幕は血にまみれている。最後に、頭上からばらばらと土をかけられて、それで永遠におさらばとなる」 と書いたパスカルだが──。それでも「聖体拝受」のために主任司祭がやって来たとき、彼はさけんだ。 「願わくは、神、永遠にわれを見捨て給わざらんことを!」" "太宰治 三十九歳没 美知子夫人宛の遺書には、 「……永居するだけ、皆をくるしめ、こちらもくるしく、かんにんして被下度(くだされたし)。子供は凡人にてもお叱りなさるまじく。(中略)あなたを、きらいになったから、死ぬのでは無いのです。小説を書くのが、いやになったからです。みんな、いやしい、欲張りばかり。井伏さんは悪人です」 とあった。" "カフカ 四十一歳没 死後、彼の机のひきだしから、唯一の親友ブロートにあてた紙片が発見された。それには、 「僕の最期の願いだ。僕の遺稿の全部、日記、原稿、手紙のたぐいは、一つ残らず、中味を読まずに焼却してくれたまえ」「僕の書いたものの中で、まず一応認めてもいいのは、すでに書物になった『死刑宣告』『火夫』『変身』『流刑地にて』『村医者』『断食行者』だけである。それだけを一応認めるというのは、それが新しく重版され、明日の人々に読まれたいと願うのでは決してない。そんなものがすっかり無くなってしまえばいちばんありがたいのだ。ただ、とにかく一度出版されたものだから、それを持っていたいという人々が所持しているのまで、禁止しようとはしないだけのことだ」 と、書いてあった。" "チェホフ 四十四歳没 トルストイは、彼の信念たる魂の不死を説いた。黙って聞いていたチェホフは、やがてポツリといった。 「そういう不死でしたら、私には不要です」 哀愁と人間愛にみちた数々の名作を書いた温雅なチェホフは、神を信じていなかった。"
- 2025年5月15日女子をこじらせて雨宮まみ読み終わった(本文抜粋) ”つまずいたら、素直に笑って「つまずいちゃいました」と言えばいいんです。たったそれだけのことが平気になるまで、ずいぶん長い時間がかかりました。“ ”恋愛をするということは、汚い自分を引き受けることです。まったく汚いところのない恋愛なんて、ない。どこかに必ず汚い自分の影が現れる。“ ”恥ずかしいとか、自分ごときがずうずうしいとか、それが何なんだと思いました。そんなことを言っていたらずっとこのままだし、このまま死んでしまう。グチと不満で埋め尽くされた人生を、ひんまがった顔で終えるしかない。自分は、まだ何も人生というものを生きていない。自分の思った通りに行動してちゃんと恥をかくこともせず、もしかしたら自分でもまだ知らない才能がどこかに眠っていて誰かがそれを見つけてくれるかもしれないなんて都合のいい夢みたいなことばかり考え、自分の生身の姿をどこかに置いて、まっすぐ力を試すことすらしていない。自分はまだ一度も世界に直接触れてはいないんだ、と思いました。“ ”こういうことをしたらこう思われる、こういうことをしたら誤解される、こういうことを書いたらイタイ人と思われる、そうやって自分をがんじがらめにしていた「自分の中にある他者の視線」を、やっと振り切れた気持ちになりました。他者の視線はもういい。客観視するのはもういい。もうさんざんやったじゃないか。さんざんやって、上手くいったことがあったか? 結局、客観視している自分の意見と、内側から出てくる「これをやりたい」という欲望のバランスが取れなくて、いたずらに苦しんだだけじゃなかったか。あふれ出るような快感や楽しみを不必要に我慢しただけじゃなかったか。自分で自分をコントロールして上手くやれると思っていたこと自体が思い上がりで、ぜんぜん上手くできていなかったじゃないか。自分は、そんなに取り返しのつかないひどいことをしたか? 仮に本当にそれがひどい失敗だったとして、失敗したからとさらに縮こまって、誰からも非難されないような文章を目指して、自分の文章の「非難されそうな箇所」を執拗に添削し続けるのか? 欠点を直そうと思うのは向上心かもしれませんが、自分が自分である根本を欠点として否定し、それを直そうとしたり隠そうとしたりするのは、ただ歪みを生むだけでなく、長所までも削り取ってしまうものだと思います。添削して欠点を取り除いた文章に、私の長所は果たしてあるのだろうか。そして、そんなことをすることに、喜びはあるのだろうか。 30歳を過ぎて、もう若手とも言えないような年齢になってそんな方向に進むのは間違っている、とはっきり思いました。言いたいことを言っている人に嫉妬しながら、自分は欠点を見せないようにせこせこ添削して書くなんて、やりたくない。 それは久しぶりに感じた「誰がどう思うかじゃなく、自分が本当にしたいこと」の気配でした。「本当にしたいこと」「やりたいことをやる」なんて、すごい才能のある人にしか許されていないことのように思っていましたが、べつに自分がやったっていいわけです。何か選択肢が目の前に現れたら、自分が楽しそうだと思うほうを取ろう、選択肢がなかったら自分がいいと思う方向に進もう。そう思って、今までそう思えなかった自分は異常だったと気づきました。“
- 2025年5月14日カルテット2坂元裕二読み終わった(本文抜粋) “「いいんです。わたしには片思いでちょうど。行った旅行も思い出になりますけど、行かなかった旅行も思い出になるじゃないですか」“ ”「良くありません。仕事やバイトが優先になって、シフトあるからって、本来やりたかったことが出来なくなった人、僕はたくさん見てきました」 「でもこのままだと、将来本当にキリギリスなっちゃって」 「飢え死にしちゃって」 「僕らもそろそろ社会人として、ちゃんとしないと、ね」 「(頷き)ちゃんと……」 「ちゃんとした結果が僕です」 「(え? と)」 「ちゃんと練習しようよ。ちゃんと楽譜見ようよ。こどもヴァイオリン教室の頃から僕、周りの子たちに言ってたんです。その頃ちゃんとしてなかった子たちは、今みんな世界中で活躍してます。ちゃんとしようばかり言ってた僕は今……」 「でも……」 「飢え死に上等、孤独死上等じゃないですか」 「(え、と)」 「僕たちの名前はカルテットドーナツホールですよ。穴がなかったらドーナツじゃありません。僕はみんなのちゃんとしてないところが好きなんです。たとえ世界中から責められても、僕は全力でみんなのことを甘やかします」“ “「二種類ね、いるんだよね(と、司に顔を寄せて)」 「(諭高の顔が近いので引いて)はい」 「人生やり直しスイッチがあったら押す人間と押さない人間。僕はね、もう押しません」 「(司に顔を寄せ)何で押さないと思う?」 「(諭高の顔が近いので引いて)さあ」 「みんなと出会えたから。ね、ね」“ ”「はじめまして。わたしは去年の冬、カルテットドーナツホールの演奏を聴いた者です。率直に申し上げ、ひどいステージだと思いました」 「バランスが取れていない。ボウイングが合っていない。選曲に一貫性がない。というよりひと言で言って、みなさんには奏者としての才能がないと思いました」 「世の中に優れた音楽が生まれる過程で出来た、余計なもの。みなさんの音楽は、煙突から出た煙のようなものです」 「価値もない。意味もない。必要ない。記憶にも残らない。わたしは不思議に思いました」 「この人たち、煙のくせに、何のためにやってるんだろう。早く辞めてしまえばいいのに」 「わたしは五年前に奏者を辞めました。自分が煙であることにいち早く気付いたからです」 「自分のしてることの愚かさに気付き、すっぱりと辞めました。正しい選択でした」 「本日またお店を尋ねたのは、みなさんに直接お聞きしたかったからです。どうして辞めないんですか」 「煙の分際で、続けることに一体何の意味があるんだろう。この疑問は、この一年間ずっとわたしの頭から離れません」 「教えてください。価値はあると思いますか。意味はあると思いますか。将来があると思いますか。何故続けるんですか。何故辞めないんですか」 「何故? 教えてください。お願いします」“ ”「これ、これ何だろ」 「パセリ」 「そう、パセリ」 「パセリがどうしました?」 「あるよね、パセリ」 「あんまり好きじゃないんで」 「唐揚げ食べたいから」 「違う違う」 「諭高さん、パセリぐらいで」 「パセリぐらいってことは」 「え?」 「家森さんが今言ってるのは好き嫌いのことじゃないと思うんです」 「(そう、と頷く)」 「家森さんが言ってるのは、パセリ見ましたか、と」 「(え?)」 「(そう、と頷く)」 「パセリ、確認」 「しましたか?」 「(え?)」 「パセリがある時と無い時」 諭高、唐揚げの横にパセリを置いたり外したりして。 「ある、ない、ある、ない、ある、ない。どう? 無いと淋しいでしょ? 殺風景でしょ? この子たち、言ってるよね、ここにいるよーって」 「どうすれば良かったんですか?」 「心で言うの(と、真紀を見る)」 「サンキューパセリ」 「サンキューパセリ。食べても食べなくてもいいの、そこにパセリがあることを忘れちゃわないで」 真紀と諭高が見張っている中、すずめと司、大皿から唐揚げを取ろうとして。 「(パセリに気付いて)あ」 「(パセリに気付いて)あ」 「パセリ、ありますね」 「パセリ、綺麗ですね」 「サンキューパセリ」 「そう」“
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