人間失格 グッド・バイ 他一篇

人間失格 グッド・バイ 他一篇
人間失格 グッド・バイ 他一篇
太宰治
岩波書店
1988年5月16日
1件の記録
  • 読書猫
    読書猫
    @YYG_3
    2025年5月2日
    (「人間失格」抜粋) “「世渡りの才能だけでは、いつかは、ボロが出るからな。」 世渡りの才能。……自分には、ほんとうに苦笑の他はありませんでした。自分に、世渡りの才能! しかし自分のように人間をおそれ、避け、ごまかしているのは、れいの俗諺の「さわらぬ神にたたりなし」とかいう怜悧狡猾の処世訓を遵奉しているのと、同じ形だ、という事になるのでしょうか。ああ、人間は、お互い何も相手をわからない、まるっきり間違って見ていながら、無二の親友のつもりでいて、一生、それに気附かず、相手が死ねば、泣いて弔詞なんかを読んでいるのではないでしょうか。” “「いや、もう要らない。」 実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、自分のそれまでの生涯において、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。自分の不幸は、拒否の能力のない者の不幸でした。すすめられて拒否すると、相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、実に自然に拒否しました。ヨシ子のいわば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。” (「如是我聞」抜粋) “世の中をあざむくとは、この者たちのことを言うのである。軽薄ならば、軽薄でかまわないじゃないか。何故、自分の本質のそんな軽薄を、他の質と置き換えて見せつけなければいけないのか。軽薄を非難しているのではない。私だって、この世の最も軽薄な男ではないかしらと考えている。何故、それを、他の質とまぎらわせなければいけないのか、私にはどうしても、不可解なのだ。” “当時、私には好きな女があったのである。そいつと別れたくないばかりに、いい加減の口実を設け、洋行を拒否したのである。この女のことでは、後にひどい苦労をした。しかし、私はいまでは、それらのことを後悔してはいない。洋行するよりは、貧しく愚かな女と苦労をすることのほうが、人間の事業として、困難でもあり、また、光栄なものであるとさえ思っているからだ。”
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