南三陸日記

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- 書痴楽@shochiraku2025年5月5日読み終わった震災を故郷南三陸町で経験した者として読むことを意識的に避けてきた一冊。私自身が在宅避難者であったり、震災翌年に単身上京して以降郷里との縁が希薄になったこともあり、震災について振り返る時間を持たなかったものの、町に残した両親はじめ家族のことを考えUターンを意識するようになった今日、ようやく手に取ることができた。 1年という限られた期間、地元ホテルを拠点に町内はもちろん、主要取材先となったある家族の住む隣市に通った著者の目には、未曾有の災害に見舞われた地で必死に生きんとする人々がどのように映ったのであろうか。詳細はぜひ本書を手に取って確認してほしいところではあるが、あの災害を郷里で経験した私にとって、災害が生み出した悲劇だけでなく、そこに生きんとして必死に歯を食いしばる人々の姿はもちろんのこと、地方にあって都市にはない人々の精神的なつながり(それは震災後に流行した「絆」という言葉で表現できるのだろうが、私にとっては「普段からの『おかげさま』」という言葉の方がしっくりとくる)に起因する話題にも紙幅を割いてくれた著者に感謝の念が絶えない。 本書を読み進めている途中、不意にある言葉が脳裏に浮かんだ。同じ震災被災地であり、今年2月に平成以降最悪の山林火災に見舞われた岩手県大船渡市在住の方が発した言葉だ。 「大丈夫です、三陸の人は強いですから」 三陸の人々は粘り強く情に厚い。当事者である我々が忘れかけていたことを、本書を通じて思い出すことができたような気がする。