富士日記 下巻 改版

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- noko@nokonoko2025年6月8日買った読み終わった心に残る一節「……うふふ。死ぬ練習。すぐなおる」と、ふざけたように呟いた。めまいはすぐなおった。 言いつのって、武田を震え上がるほど怒らせたり、暗い気分にさせたことがある。いいようのない眼付きに、私がおし黙ってしまったことがある。年々体のよわってゆく人のそばで、沢山しゃべり、大きな声で笑い、庭を駈け上がり駈け下り、気分の照り降りをそのままに暮らしていた丈夫な私は、何て粗野で鈍感な女だったろう。 また来年ね、といって車を見送る。来年、変わらずに元気でここに来ているだろうか。そのことは思わないで、毎日毎日暮すのだ。富士山の灯、頂上まで続いて見える。 ときどき、不安が一杯の、手探りだけの、ざるで水を汲み続けているような私。