スペードのクイーン/ベールキン物語

スペードのクイーン/ベールキン物語
スペードのクイーン/ベールキン物語
アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・プーシ
望月哲男
光文社
2015年2月10日
1件の記録
  • CandidE
    CandidE
    @araxia
    2025年8月16日
    巻末の「読書ガイド」がすごく充実している。これは必見!プーシキンの生涯、ロシアの地図、詳細な作品解説が相当な分量で続く。さすがはロシア文学のビッグバン=プーシキンという扱いであった。 とりわけ検閲に関する記述から、時代の渦中でいかにプーシキンが命を張った文人であったかが伝わる。あっぱれ! また、賭博や決闘について、両者に通底するロシア的な気風が言語化されていて面白い。その濃厚なエッセンスはドストエフスキーへ直結している。すなわち、抑圧的な秩序=偶然のゲームとしての社会に抗って、賭博や決闘が自己発現のこの上ない舞台となる。 以下、その引用。 「偶然に翻弄される賭け事とは、渾身の力でリスクに立ち向かい、勝利も敗北も平然と受け入れる高級な快楽であるとともに、ちょうど決闘と同じように、抑圧的な社会にあって個人の自由な選択や裁量が保障される、数少ない自己発現の舞台でもあった。「規律正しい国家体制」の諸原則と、実際の社会を貫く恩寵やえこひいきといった恣意的な原理の交錯が、社会自体を一つの偶然のゲームとしていたとすれば、賭博はそれに対抗するもう一つのゲームだった。一枚のカード(=偶然)に大金を賭けてリスクを勝利へと結びつけようとする賭博者は、不可知の運に意志の力で対抗しようとする雄々しい闘士である。賭博熱は決してプーシキン個人の抱えていた特殊な問題ではなく、時代の精神の兆候であり、決闘と同じく公的には禁じられていながら、多くの貴族がそこにこそ生命の燃焼の場を見出していた。賭博の場は人間の真価を問われる自己表現の舞台であって、だからこそ、勝負の負債は何をおいても清算しなければならなかったのだ。」
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