記憶の盆をどり

記憶の盆をどり
記憶の盆をどり
町田康
講談社
2022年8月10日
2件の記録
  • 読書猫
    読書猫
    @bookcat
    2025年7月23日
    (本文抜粋) “岸壁を転げ落ちて以降、どういう訳か、エゲバムヤジはどんどん可愛くなっていった。連れて歩くと人が振り返った。連れてカフェーに入ると必ず話しかけられた。毛並みは輝くように白く、目は黒曜石のように濡れて光っていた。首を傾げて考え込むような仕草、ちょっと出掛けて帰ってきたとき駆け寄ってくるときの顔。犬のようでもあり、猫のようでもあり、小鳥のようでもあった。 (「エゲバムヤジ」)” “「え、知らないの? じゃあ、教えてやるよ。俺たちはなあ、物なんだよ。物というものは人と違って意識がないんだよ。考えたり、喋ったりすることはできないんだよ。けど、生まれてから百年経つと、物にも意識が生まれてくる。ところが人間はこれを嫌がるんだよね。人間からすると俺たち物に意識があって考えたり喋ったりするのは死ぬほど君が悪いものらしい。だから、九十九年目にこうして棄てられるんだよ。それを称して煤払い、とこう人間は呼んでるんだよ。わかったか」 (「付喪神」)” “邦彦は、絶対に走らないこと、を条件に瑠佳と結婚した。瑠佳は、なぜ走ってはならないのか、その理由を言わなかった。ただ、「走らないで欲しいの」とだけ言った。 (「ずぶ濡れの邦彦」)” “つまり演劇。彼らは各々、その役割を演じているのであり、実生活にあたってはほぼ同質の人間であった。闘え、と言うものと、融和せよ、と言うもの。否定せよ、と云うものと、肯定せよ、と言うものがいま入れ替わったところで、誰も気が付かないし、当人のなかに矛盾も葛藤も生じない。その思想は衣装や鬘と同じものであり、「生き様」は文字通りひとつのシンプルな様式であったのである。 (「少年の改良」)”
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