ふたりの世界の重なるところ

ふたりの世界の重なるところ
ふたりの世界の重なるところ
渡辺由利子
月曜社
2023年11月1日
1件の記録
  • 職場の人に紹介された一冊紹介される際に見せてもらった、自分の気持ちを整った文章にする過程で本当に自分がかきたいものががその文章の中から消えていってしまうという趣旨の文章が印象的だった。(その時私は丁度渡邉雅子『論理的思考の文化的基盤』を読んでいた。この本は各国の作文教育における作文の型を比較するような本であり、まさに文章の整え方について論じている。職場の人と、「正反対の本ですね」と談笑した。ただし、当然、どちらの本もそれぞれの価値があり、互いの主張を非難し合う関係にあるけではない。)その時からぼんやり気にしつつ、たまたま本屋で見つけたときは顔追うか迷ったこともあった。しかし、本書の主題の主人公であるジネヴラ・ボンピアーニはもちろんのこと(ジネヴラに関しては日本ではさほど著名ではない)、もう一人の主人公で著名な哲学者のジョルジョ・アガンベンも名前を耳にしたことがある程度である。イタリアについても、何か知っている訳でも、調べたことがある訳でもないため結局読まずに本棚の前を何度か通り過ぎた。しかし、ある時ふと本書について調べていると、とあるポットキャストに著者の渡辺由利子さんが出演されているものを見つけて聞いてみた。その時の著者の柔らかい話し方と、謙虚で素直な執筆に対する姿勢や、パーソナリティの本書に対する感想を聞いて、「この人の書いた本なら読んでみたい」と思い図書館から借りてきた。カバーもない、比較的簡素な作りの本。ページ数も180ページほど。明朝体で書かれたタイトルと著者名、少し模様が浮かぶ静かで落ち着いた表紙が印象的な一冊である。たくさんの文献にあたって時間をかけて丁寧に書かれたことがわかる。一方、専門書のような重々しさはなくてずっと身体に入ってくるような柔らかい文章が魅力的だった。紹介される際に見せてもらった書くことについて書かれた部分が印象的。「正しい文法、正しい語順の範囲でしか感じることができなくなってしまう」という言葉はみにつまされる。じっくりまた読み返したくて結局本屋で買ってしまった。手元に置いておきたい一冊。
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