大鞠家殺人事件
5件の記録
- たるたる@miyabi2025年9月10日読み終わった感想小説ミステリー初読み作家さん星3.5@ 電車初読み作家さんですが、いきなりの大著460p強の一冊『大鞠家殺人事件』に挑戦・読了しました。 第二次世界大戦戦前から終戦直前までの大阪の船場を舞台にした長編本格推理小説。現代とは地続きながら、大阪の、商いの都の特殊なしきたりと文化が根付く大店の中での暮しは、著者の言うとおり今どきではピンと来る人・イメージできる人も限られるだろう。 逆にある意味それは古き良き海外名探偵の時代のお屋敷ものに通じる、一つの閉じた別世界と同義である。 そしてその場所で長い年月を大きく跨ぎながら起こる殺人事件の数々は、非常に奇怪で首を捻るようなものばかり。しかし、それらは最後まで読んでいくと、あっと驚く真相とともに読書の方が唸るようにできている。 これは、ひとえに著者の文章の読みやすさとページを繰る手を止めさせないストーリーテラーの力量故かと思われる。なにせ冒頭にも買いたように460pほどの大著で、年代もまたぐような話なので、途中でだれたり読み疲れを起こしそうものなのに、この本ではついぞそう言うことがなかった。 するすると楽しくページを繰っていくことができた。これを読みやすさとストーリーテラーとしての才能を誉めずになんと言うべきか。 とはいえ、万人にお薦めかと問われると、些細なことではあるが二点ほど気になる点がある。 一点目は時折出て来るコテコテの大阪弁ないし船場の商家の言葉遣いだ。「〜でっしゃろか?」「お家はん」「ごりょんさん」などと言う言葉が舞台の当然として出て来るが、これがきちんと受けつけられるか。 ぼくのようなちょっと古めの人間らは、この辺りの言葉もナチュラルに分かるし地の文との切り替えもごく自然に意識せずにできる。ドラマでいうと「あかんたれ」の世界やなとか「あっちこっち丁稚」な世界だなとストンと入り込める。けれど、関西人以外が個々のことをすんなりと受け止めてくれるか、ゆるいコミカルな方言的に意識の邪魔にならずにいてくれるかという点だ。こればっかりは、それが自然の人(中の人)にとっては,そうじゃない人(外の人)の感覚が掴めない。 二点目は、同じような中の人と外の人の違いの亜種だが、今度は「古典な海外ミステリの知識があるか否か」でこの小説の読み味や面白さはだいぶ違う可能性が高いということである。この小説の主要人物のうちの何人かは古典的な海外ミステリに詳しい。クロフツやらヴァンダインやカーの登場人物やらがするっと出てくる。もちろん、それを知らなくても本作は楽しめるし、フレーバーテキスト的なものとしてそういうものがあるんだなと流してしまってもトリックそのものにはなんの影響もない。しかし、知っていればさらにそこで面白みが増すという点があるのは間違いがない。例えば、京極夏彦の『鉄鼠の檻』を読むのに事前に禅宗のことや仏教史や考案のあれこれを知らなくても問題はないが知っていればさらに面白いというようなことのもう少しギュッと煮しめた感じがある。 この二点は、この作品の面白さからすると些細なことだが何せボリュームのある作品だけにあえて少し触れてみた。 さて、話戻して面白さという点については先ほども書いたように十二分に面白いと思う。ちょっと意外な動きをする名探偵や、時代背景をうまく使ったトリックなどにはニヤっとさせられた。それに過剰なくらい色んなものを載せてくれるサービスぶりには感心した。 なので、個人的には星4.5くらいドーンと行きたいとこなのだけど、一方で確かに著者ご本人がおっしゃるとおり合う人と合わない人が別れるとというのも確かかなぁと思うので星3.5としました。 ちなみに、本書は第75回日本推理作家協会賞、第22回本格ミステリ大賞受賞作です。




