ぐつぐつ、お鍋
2件の記録
あんどん書房@andn2025年11月11日読み終わった二日間お鍋を食べながら(うちの鍋は味噌煮)読んだ。 池波正太郎が小鍋立ての良さを説いた後に東海林さだおが小鍋立ては陰気だなんて書いてて面白い(その孤独さを称揚している文章ではある)。もちろん狙って並べられてるんだろうが。 フグについて書いている面々も多く、山口あたりの武士はフグに当たったら不忠不孝で家名断絶だったみたいな話も初めて知った。 いきなり「アンコウのトモズの舌触りは少なくとも接吻よりは多様である」(P65)などと言い始める宇能鴻一郎も面白いし、小島政二郎の書く泉鏡花のエピソードもなんだか可愛らしいおじさんだし、池内紀は「ちくわは穴がおいしいのだ」(P88)なんて名言を残している。 ねじめ正一「すき焼き——父と二人だけの鍋」は父子水入らずの旅館の夜を回想した一作。これは良いなぁ。 「腹がくちくなる」っていうの、久々に聞いた。形容詞だから終止連体は「くちい」になるのか。そうなると「くるちい」から来てそうだなと分かる。 ラスボス的存在の北大路魯山人は、貝類は鍋に入れすぎると味を悪くするのでよろしくないと仰っており、貝苦手な私としてはそーだそーだと言いたくなるのだった。 しかし出汁の出るものと出汁を吸うものを交互に煮るとか毎回具材を綺麗に片付けてから次を入れるなんてのはご家庭のお鍋ではあまりに面倒なので、そこは寄せ鍋でいいです…。 筒井ともみ「寄せ鍋嫌い」では、家族が不安定だったゆえに鍋が嫌いになった話が書かれている。確かに、純粋に楽しい鍋の思い出を持っている人ばかりじゃないよなぁと思った。 料理の話は時に残酷なまでに格差を映し出す。(昨今はそういうアプローチの小説も多いよね) 最後の最後が岡島京子による鍋料理でなく鍋自体の話で終わっているのもおかしみがある。「メリークリスマス!」ということで、やはり今の時期に読むのが良い一冊だった。 (ただし、お鍋の文章をずっと読んでると胸焼けがしてくる。次はサラダとかを読みたい…) 本文書体:リュウミン カバー装画:植田まほ子 ロゴ・表紙デザイン:粟津潔


