パンドラの匣 太宰治集 (古典名作文庫)

2件の記録
🦈@Lore_Link2025年10月30日読み終わったp.37 人間は死に依って完成せられる。生きているうちは、みんな未完成だ。虫や小鳥は、生きてうごいているうちは完璧だが、死んだとたんに、ただの死骸だ。完成も未完成もない、ただの無に帰する。人間はそれに較べると、まるで逆である。人間は、死んでから一ばん人間らしくなる、というパラドックスも成立するようだ。鳴沢さんは病気と戦って死んで、そうして美しい潔白の布に包まれ、松の並木に見え隠れしながら坂路を降りて行く今、ご自身の若い魂を、最も厳粛に、最も明確に、最も雄弁に主張して居られる。僕たちはもう決して、鳴沢さんを忘れる事が出来ない。僕は光る白布に向って素直に合掌した。 p.102 科学の基礎をなすものは、物理界に於いても、化学界に於いても、すべて仮説だ。肉眼で見とどける事の出来ない仮説から出発している。この仮説を信仰するところから、すべての科学が発生するのだ。 p.145 この道は、どこへつづいているのか。それは、伸びて行く植物の蔓に聞いたほうがよい。蔓は答えるだろう。「私はなんにも知りません。しかし、伸びて行く方向に陽が当るようです。」


