おはなしのろうそく(1)

おはなしのろうそく(1)
おはなしのろうそく(1)
東京子ども図書館
東京子ども図書館
1973年4月1日
2件の記録
  • oyuami
    oyuami
    @oyuami
    2025年7月19日
  • 収録されている話は8つあるけれど、エパミナンダスがいちばん好きだった。読み聞かせをせがむのも、字が読めるようになってからひとりで読んでいたのも、エパミナンダスばかりだった。エパミナンダスは、きわめて愚かに見える振る舞いをする少年だ。毎日のようにおばさんの家に遊びに行って、おばさんからおみやげをもらってくるエパミナンダスは、けれど、いつもおみやげを持ち帰ることに失敗する。はじめはケーキをにぎりしめて帰ったせいでくずみたいにしてしまい、ケーキの持ち帰り方を教わった次の日には、そのやり方でバターを持ち帰ろうとして失敗し、あくる日はバターの持ち帰り方で子犬を持ち帰ろうとして失敗し、またあくる日は子犬の持ち帰り方でパンを持ち帰ろうとして失敗し…… 子供のころの私は、エパミナンダスの「文字通りに、言いつけ通りにやろうとする」ところがとても好きだった。エパミナンダスの母親はいつもあきれて言う。「エパミナンダス、おまえは、ほんとにあたまがないねえ」。私は母親のその言い方が、むしろとてもおかしく見えていた。だって、そういうふうに持ち帰るように言ったのは、ほかならぬおっかちゃんじゃないか……! 私はエパミナンダスの持っている世界がとてもよくわかった。私もエパミナンダスのようなところがあった。 エパミナンダスの母親はあきれて言う。 「おまえのあたまは、生まれたときからカラッポで、これから先も、死ぬまでカラッポにちがいないよ。わたしゃもう、おまえに、なにをいうのもやめたよ」…… エパミナンダスにはエパミナンダスの筋道があるのに、おっかちゃんは、どうしてそれがわからないんだろう、と、私は子供心にとても愉快だった。エパミナンダスの頭はカラッポではないことを、私はよくわかっていた。 あるルールがきわめてリテラルに(文字通りに)運用されてしまうとき、しばしばとても滑稽なことが起こる。校正の仕事はときどき、そうした、ともすれば愚かで、頭がカラッポに見えるような疑問を書き込むことがある。そんなとき、私はたまに、エパミナンダスのことを思い出している。
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