クイック・ジャパン vol.172

クイック・ジャパン vol.172
クイック・ジャパン vol.172
太田出版
2024年6月5日
2件の記録
  • ばるーん
    ばるーん
    @ballo____on
    2025年11月10日
    単行本になるらしいけど、せっかく最新回まで本があるので、町屋良平さんの『発光する、ら』の連載をゆっくり追うことにした。生活の方が忙しく参ってしまって、(長い)小説を読めない時期なので(『ほんのこども』の再々再々読も4章で止まってしまってる。ほんとうにすごい小説)ゆるくやっていこうと思う。 https://qjweb.jp/series/hakkou/ こちらから読めるみたいです。 第一回「タイムスリップ」は、弱小ボーイズグループ「8koBrights(エコーブライツ)」のサブリーダーサトシに、タイムスリップ(免許制)の現場を目撃された双子のキルトとアリスが、サトシへの説得を試みる。会話の中で、70年後の未来と現在のタイムラグを埋めるように社会制度やその背景(の仄めかし)、他にもテクノロジーが登場する。 面白いのは、アイドル×SFと銘打ってる(著者本人の意向かはわからないけど、『坂下あたる〜』は本になる時にちゃんと「エンタメ」として発表していた。)ことで、町屋さんのSFとの向き合い方が気になる。ご本人はあまりSFを(文学よりも、という意味で)読んできていないらしく、そのなかではヴォネガットが好きだと思っていたが、SF好きからすればそれは文学らしく、みたいなお話があった気がする。 私はアイドルに関してはほとんど無知で、KPOPで言えばSEVENTEENの代表曲いくつかとメンバーの顔と名前がぎり一致というぐらいだけど、第1回を読んだ限りでは、SF(過去-現在-未来の接続/断絶)を絡めた言葉と身体の物語になりそうな予感。赤子との交流を通して視点人物が、世界(言葉)と出会い直しそれを共同で作り出していく傑作「愛が嫌い」など、町屋さんがずっと取り組んできたテーマの一つがアイドル(町屋さんもどこかのグループが好きだと言っていた)と組み合わさってどうなるか楽しみ。 掲載媒体のこともあって会話のトーンも地の文も読みやすく整理されている。でもその軽さの中には、タイムスリップの時差を絶賛身体が学習中という感もあった。 あと、未来のテクノロジーがなんか制度的にゆるいのが不思議で面白い。でも未来では、概念はあるがかなりニュアンスが変わってしまった「信頼」(そのノスタルジーを試したかった、の箇所はめちゃくちゃ町屋良平っぽくて好き)や、スキンシップがタブーであったり、はては「個性」が人に認められることはありえない世界なので、結構重たい。(けど、これはめっちゃわれわれの生きる現在と地続きだ。個人情報を全開示しながらも世界に接続できわれわれは信頼を得て、物を売り買いしているし…) 「個性」が人に認められない時間・空間からやってきたキルトとアリスは結構個性的だ。認められないだけで確かにあるのが未来での「個性」なんだろうか? それともタイムスリップ間の学習で賄えた人格・性格? これからいろんな言葉(死んだものも、生きているが意味合いが変わってしまったものも)を見つけていく物語を予感しているし、あわよくば裏切って欲しい。 この辺は性格のない主人公を描いた村田沙耶香の大長編『世界99』のトレースにも似たような感を覚える。「性格」のない人間の一人称の認識を(度重なるトレースの結果生まれた性格とはいえども)あまりうまくは読めずにいたから、また読みたい。(傑作なことには変わりないと思うし、これはネガティブな意見ではなくて、何か言えるのではないか? ということです。性格ってなに? それがないってなに? 性格がない=無? そうじゃないとしたらなに? みたいなことを) 1回目でこんなに書くと、それ以降が続かない気もして怖い。 以下引用 うまく人に頼れない、甘えることができないメンバーが集まって結成されたグループ「8koBrights」通称「エコブラ」においてもキルトが比較的おおらかで、愛嬌のあるキャラとして認知されていることへの嫉妬もあったかもしれない。未来において「個性」が人に認められることはありえず、じっさいに過去に来るまでアリキルのふたりは自分たちの「性格」がどのようなものかすらよく分かっていなかった。結果アリスが「クールなボスキャラ」でキルトが「奔放な努力家」としてファンに認知されると、お互いがお互いのキャラを羨ましがって、ときどき身体情報を入れ換えて数日それを楽しむなど、ギリギリ遵法だが悪趣味ではある未来人行為を楽しんだりもしていた。 町屋良平の小説で度々出てくる、この辺りの交換を待ち望んでる気がする。ラケットを打ったり、テキストを読んだり、踊ったり演技したり、暴力でそれらを交換(小説⇄何か)してきたけど、アイドル×SFではそうなるのか。 タイムスリップ可能社会においては、かえってオールヒューマンメイドの『昭和時代』のテキストの方が、重きを置かれている。これに連なる、テクノロジーにアシストされた身体と本人のポテンシャルのみの身体が不可分という箇所も、現代のAIの使用/不使用の生成物に接続してしまう。しぜん競技もわけられ、プロとアマも明確に区別されていく、アイドル本人たちも「マナー」でアシストなしでパフォーマンスするというのも、なんだか未来が底知れない。続きが楽しみです。 読んでて思ったけど、文学でタイムスリップって読むのも書くのも難しいんじゃないか。タイムスリップを使わずにタイムスリップするのが文学っぽくはある。使うなら使うで何か策を講じないとなのかな。勉強不足の戯言ですが… 他のいろんなSNSに感想を投稿するのも怖くて、ブログとかを始めようにもあまり気力がないので、(気力がないのにこの長文は何?)せっかくだからここに書いているが、このプラットフォームは現段階で、感想が長文には向いていないのが好きだ。(向いていないが故に書きやすいみたいなところがある)
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