
Moonflower
@Moonflower0226
2026年3月11日
読み終わった
8 幻の花、巴里に繚乱す
9 ヨハン・シュトラウスが聞こえてくる部屋
【感想】
「保苅先生によるヴァレリー評伝」かと思いきや、左にあらず。最晩年の(残念ながら本書が遺著となった)保苅先生が、終の棲家として選んだパリならびにフランス(その国と人、さらには精神)を、ヴァレリーを引用しながら描いていく随想と呼ぶ方が正しい。
ヴァレリーの引用・評価だけでも十分に面白く読み応えがあるが、本書の魅力はむしろ保苅先生の日常や過去を描いた随筆によるところが大きく、両者を往還する文章の呼吸もゆったりしていて、ときに切実な内容となるもののそれでも読後感はつねにあたたかく心地よいものだった。
本書の白眉は終章、保苅先生の回想ではないか。ヴァレリーの引用はもう少なく、大半は保苅先生夫妻とさる貴婦人との交流に紙幅が費やされる。これが実に素晴らしかった。おそらくこの章が絶筆となってしまったのだろう、ふっとそこで声が絶ち消えた感があった。その深い余韻は間違いなく文学におけるそれであり、いかにも保苅先生らしい、静謐で美しい幕切れだった。