はるのななくさ "パスタマシーンの幽霊" 2026年3月12日

パスタマシーンの幽霊
どっしりとした本が続いていたので、すこしのんびりしたいと思って家の本棚から取り出した。こういう時は川上弘美先生の短編ですよ。 一度読んだはずなのに、ほとんど内容を覚えていなかった。あーあ、言ってしまった。「読書好き」と公言してたって、しょせんそんなもん。 最初に収録されている『海石』は、川上さん得意のふしぎなもの。ファンタジックなもの。ではもちろん済まされない、強く澄んだ輝きの名作と思います。 わたしとあなた、の、境界さえ持たない「好き」。わたしたちからは遠く離れた「好き」。 陸に生きてあえぐように息をして恋や恋の真似事をするわたしたちを、「あたしたち」はほほえんで見ているような気がします。 やっぱりわたしは陸のいきものだから、「好き」に翻弄される。 読んでいて、なんどか、ぐ、と息が止まるような瞬間があった。 わたしは、だれかに「かわいいね」なんて言われてみたいのだ。いとおしさと、呆れと苛立ちが交じった、それでもいとおしさが勝った声で。 だれかの可愛いひとになりたい。痛切に思う。 でもいま目の前に恋はないので、少し痛んだ。 「家の本棚」なんて書いたけれど、うちには本棚らしい本棚がない。 クローゼットの収納ケース、ちょっとした棚の上、ダイニングテーブルのすみ。はては、段ボール。 丁寧に仕舞ってあげられないことに対して、本たち、ごめん。と心で謝りながら、私はまた本を買ってしまう。 自分の小さい頃とちがい、今はネットですいすい本が買えるんだもの。かんたんすぎる。もう少し複雑だったなら、面倒くさがりの私は我慢がきいただろうに。 山の木の根元に生えるきのこみたいに、本はひっそりと、家のそこここに殖えていく。
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