@s_ota92
2026年3月22日
封印再度
森博嗣
p16
「「あそう、相変わらずか……。もうね、二十年くらい相変わらずなんだ、彼……。私が物心ついたときから、ずっと、相変わらずなんだもん。」」
p27
「萌絵のソファの横で眠っていたトーマが仰向けになっていたのである。」
p29
「原稿はきっと真っ赤になっているだろう(彼らの間では、これを火達磨という)。」
p31
「国枝桃子が仕事以外のことで自分から話しかけるなんて、ほとんどないといって良い。これも異例のことだ。よほど機嫌が良いのだろう、と浜中は思う。」
p39
「「一生のお願い」萌絵は両手を合わせる。」
p41
「電撃結婚、と言ったのは犀川自身で、この場合、「電撃」というのは、国枝桃子が雷にでも撃たれたのだろう、という意味のジョークである。」
p45
「「今日が日曜日なのは君のせいじゃない。」」
p52
「那古野では天気が良かったのに、今、空は急に暗くなり、すぐにも泣き出しそうだった。」
p57
「「全部、お見通しみたいですね。帰ったら、ちゃんと先生に報告しなくちゃ。」」
p60
「「これが、無我の匣です。」」
p62
「「これが、天地の瓢です。」」
p78
「普段でも午前中は酷い状態なのに、七時なんて歴史的な時刻に起床すると、頭は銀河系の恒星群並にバラバラだ。」
p79
「手を出さない子供にお菓子を与えることができないように、教育を受けるという動詞はあっても、教育するという概念は単独では存在しえないのである。」
p98
「「結局のところ、からくりは、わからないうちが、からくりでございましょう?知れない間が楽しいのではございませんか?」」
p99
「諏訪野は真っ白な眉を寄せ、しばらく萌絵の顔を凝視していた。しかし、彼の難しい顔は、お湯でもかけられたように、ゆっくりと満面の笑みに変わった。」
p116
「境界条件は、いずれも模糊として曖昧である。」
p119
「他人の存在を自分の内側から許容するという(たぶんありふれた)能力が、どうやら自分には欠落しているようだ、と最近気がついた。」
p131
「今夜はクリスマス・イヴ……。しかし、暦など、犀川の日常にはまったく(少なくともこれまでは)無縁だった。先日一つ思いついた法則は、「無縁から落ちこぼれたものが、特別になる」というものだ。」
p147
「「この場合、ダイニング・メッセージってわけだね。」」
p151
「雪が降っている。」
p217
「謎は、製造途中の綿菓子のように、ますます大きくなった。彼女の知らない人物が一人死んだという事実に目を向けなければ、それは文字どおり綿菓子のように魅力的だ。しかも、その綿菓子の心棒は、ほかでもない、彼女が掴んでいたもの……、すなわち、天地の瓢、そして無我の匣なのである。」
p224
「固くて足の痛くなる、憂鬱の塊のような重いスリッパを引きずって、冷たい階段を下りる時、人間って結局、自分のことで涙を流すのだ、と萌絵は思った。」
p225
「国枝桃子にも、成長という現象が初めて確認されたからだった。いや、もしかしたら、彼女の場合それは成長ではなく、劣化だったのかもしれないが……。」
p233
「国枝からのメールは俳句よりも短かかった。」
p252
「犀川にとって食事のコンセプトは、エネルギィ補給であって、空中給油みたいな形態が理想である。」
p264
「「耳は暴洋に泳ぎ、瞳は星原に座する、かな……。」」
p297
「その可能性がないわけではない。自分は何にだってなれるはずだ。なりたいものには何にでもなれる。望みさえすれば……。」
p328
「だが、国枝助手が「犀川先生の代理だよ」と言ったときには拍手喝采だった。」
p331
「大学の試験期間中、自主的にせき止められていた彼女の自由思考は、許容水量ぎりぎりのダムみたいに、ポテンシャル・エネルギィの塊だった。」
p339
「「こんな時間に大変ご無礼をいたします。私も熟慮いたしまして、逡巡しておりますうちに、時間ばかりが過ぎてしまいました。しかし、やはり、犀川先生にはお伝えしなくてはならないと決心いたしたしだいでございます。」」
p344
「木蓮は真っ白に膨張し、桜が蕾を見せ始めている。このまま、無理に咲いて散っていかなくても良いのに、と犀川は思う。」
p345
「そもそも、意味のある生き方なんてあるのか。」
p353
「その優しさは、犀川の最も深いところからわき上がってくるものだった。」
p353
「「あの、どういうこと?私の勝ちだから?ご褒美かしら……。」」
p357
「(できることは何一つない。)」
p363
「「別に、私の許可なんて意味はないのです。そもそも誰の許可でも、意味はありません。結婚なんて、言葉にも、その概念にも、意味はないわ。けれどね、犀川先生……。貴方は、今、イエスと言ったのよ。それは、とても意味があることです。」」
p364
「それが人間にしかない、一番大切なもの……。一番大切な、幻想だ。」
p372
「「冷徹ですね。」」
p374
「「あの……、それは、割れと教えているのでしょうか?それとも、割るなと教えているのでしょうか?」」
p378
「「いえ、真面目な話です。それが、僕の言ったメカニズムなんです。結局、人間の命って、そういう無駄なのものに、少しずつ溶け込んでいくようですね。」」
p387
「「自信というよりは、予測です。」」
p389
「「我慢というのはですね、そもそも個人の能力ではありません。単なる現象なんです。」」
p392
「「うーん、感動したよ。名推理だね。」」
p392
「「メースイリ?」祐介は口真似をする。それから、ひっくり返っていた幻魔大将軍のハッチを小さな手で器用に開けると、「電池あるよ」と言い、犀川の顔をまじまじと見て、けけっと笑った。」
p394
「未来のことを考えている間にも、未来は、自分の影のように逃げていく。影はしだいに長く、大きくなり、ついにすべてが闇になる。未来は着々と拡散していくのだ。」
p406
「「一生のお願いがあります。」」
p412
「「約束に遅刻しても文句は言いませんカード……、それに、たちまち機嫌を直しますカードを、それぞれ十枚つづりで、どうですか?」」
p420
「毎日見落としているものが、まだ沢山あるかもしれない。」
p424
「「それを聞いて、僕は本当にびっくりしたよ。それを覚えている。電池がなくなる?あんなしっかりしたものが?それで、中を開けて、見てみたんだ。そうしたらさ……、電池はやっぱりちゃんとあるんだ、これが……。」」
p425
「「気がついたね。西之園君。」」
p428
「「実は、お嬢様は、犀川先生に対するエイプリル・フールの悪戯を思いつかれまして、その折に……、この、私めも、お嬢様の並々ならぬ強いお言い付けとは申せ、少々ではございますが、いえ、決して、少々などとは申せませんが、この諏訪野、不覚にも……。」」
p429
「「目的のためには手段を選ばん、というやつだな。どうだ?お前にそっくりじゃないか?」」
p442
「「フラッシュバックか……。」犀川は独り言のように囁いた。」
p446
「「世の中のタイミングの悪さ……ってやつですか。」」
p448
「「二十年だろう?」横で捷輔が鼻を鳴らす。」
p449
「「貴女……、私と区役所と、どっちが偉いと思っていて?」」
p450
「「当たり前です。届けたところの許可が必要ですわね。もしも、そんなふうになったら、まあ、その場合は、私のところは、覚悟していらっしゃると良いわ。この佐々木睦子が、すべて、めちゃめちゃにして差し上げますからね……。他にご質問は?ございません?それでは、ごめんあそばせ……。」」
p462
「「こちら、N大学の犀川先生と西之園さん。二人は、うちの課の特殊犯罪捜査研究委員会のメンバでして……。」」
p462
「深澤は子供のように、にやりと笑った。「私もね、今はただのおやじです。」」
p468
「「ええ、使えなくなった乾電池を『電池がなくなった』って言うじゃないですか……。抜け殻なんですから、人間だってそれと同じです。」」
p477
「「最初は計算、次は実証、これを繰り返し、仮想のモデルを組み立てる。しかし、不可欠なのは、飛躍です。ちょっとした飛躍。そして、ついに源泉に到達する。そうなれば、最後は一般への展開です。」」
p480
「それでも、結局、あの壺と鍵箱に関しては真っ暗な状態だったので、一番初めに彼女の前に現れた謎が、こうして最後の最後に、彼女の目前に立ち塞がっていることが、しだいに鮮明に認識されるだけだった。」
p481
「「ほら……。」犀川は刑事たちの方を見て肩を竦める。「彼女も完璧じゃないでしょう?」」
p484
「「単なる自然現象です。」「自然現象?」鵜飼が繰り返す。明らかに何も考えていない場合の復唱反応である。」
p489
「たぶん、パスカルでも、パスカルじゃなくても、既に理解を超えているようである。」
p490
「「はあ、そうです。」三浦は慌てて頷いた。自分の口から出たものだったが、たぶんもう正確な名称は二度と言えないだろう。」
p500
「「素直にはいと言いますカードだ。」」
p503
「「最高に素敵な質問ですね。」犀川は微笑んだ。「恥ずかしくて、とても答えられません。勘弁していただけますか?」」
p504
「犀川は、何かに吸い込まれていく自分を感じた。それは、たぶん、一点の曇りもない闇。壺の中だった。」
p509
「「それも、ひと欠け……、なのですか……。」彼女は微笑んだ。ぞっとするほど美しい、勝利の微笑だった。それは、もう完成している美、なのだろうか?」
p514
「しかし、多可志は少なくとも、犀川の意志を感じ取ったようだった。言葉以外でも通じることがある、という危険な楽観を、今日ばかりは例外だ、と自分に言い聞かせて、犀川は黙認した。」
p517
「喜多というのは、犀川の親友で、萌絵もよく知っている人物である。犀川には、他に親友と呼べる人間はいないし、その必要も感じなかった。」
p520
「「さて……。水に易く、火に難し。」」
p530
「「君の一瞬の思考が、見事だと言ったのさ。それが、最後の段階だね。つまり、得られた理論モデルの一般展開。継承という高度な論理展開に相当するものだ。」」
p531
「「天地の瓢の、天地というのは、逆さにするという意味で……、無我の匣の、無我は、有っても無い短刀……、このナイフの形の凹みを意味していたのですね?」」
p537
「「優しいというのは、矛盾を許容できるという意味だよ。」」
p537
「「まるでさ、単純な生き方をしようと望んでいるのに、どんどん人生が複雑になっていくことを象徴しているようじゃないか。自分の人生は一本道なのに、それが他人の糸と絡み合って、織物みたいに歴史が作られる。それが人間社会のメカニズムだ。それと同じだね。」」
p538
「「知らないままの方が、綺麗だ。」「わかりません。」「それで良い。」」
p542
「「だけどね……、正しいことに潔くなれないときってのがあるんだね……。正しいって、何かな?僕は今晩それを見たんだ。だから言っただろう?今夜は、記念すべき夜だって……。」」
p544
「パソコンがOSを読み込んで立ち上がるように、毎朝、自分の犀川という名前を思い出し、同じ役柄を演じようとしている別のハードではないのか……。」
p556
「国枝桃子は合理的だ。」
p560
「「貴女のさ、そういう率直なところが、私、好きだな……。でも、何がいけないわけ?」」