鷲津 "生きていくうえで、かけがえの..." 2026年3月29日

鷲津
鷲津
@Washizu_m
2026年3月29日
生きていくうえで、かけがえのないこと
『弟に絵を描く秘訣を訊くと、写生に際して多くの描き手が対象をちゃんと見ていない、と言った。目の前の花を見ずに、頭の中の花を描いているのだという。』 吉村萬壱の視座は、この一文に尽きると思う。彼は我々と同じ景色を見ながらも、直視し感じたままの言葉を紡ぐ。僕が彼に惹かれる理由はここにある 「クチュクチュバーン」以降、彼の著作は何冊か読んでいた。ちょっと変わったことを書く作家さん…そんなイメージしかなかった。その後に出会った「ボラード病」この本は衝撃的だった。目に映る情景をそのまま表現できる勇気を持った作家。そんな印象に変わった 『彼らを最も苦しめたのは、ひょっとすると、一定のストーリーを持った音だったのかも知れない。「みんなひとつに」「がんばろうニッポン」「絆」といったスローガンや、煽るような歌や音楽が、大切な人の発する微かな声や音を津波のように掻き消してしまうのではないか、そんな恐怖に脅えていた人々がいたかも知れないし、今もいるかも知れない。』 吉村萬壱の言葉には嘘偽りがない。誰もが内心思いながらも口には出さない心模様をストレートに書く。その言葉に、薄々気付きながらも我々が誤魔化して生きてきた何かを抉ってくる。真正面から投げつけられた生きた言葉には逃げ道がない 『水は力を加えられればどんな形にでもなり、千切れたり飛び散ったりする。(略)しかしどこからも力を加えられなければ、自らの力で鏡のように静かになる。心の水も同じかも知れない。』 吉村萬壱の小説には救いがない。不条理のままエンディングを迎える。でもこのエッセイには其処彼処に救いの言葉がある。彼独特の感性に最初は戸惑い、何度も読み返すと心の奥深くに届く言葉 昔僕を癒やしてくれた村上春樹訳の「神さましか知らない」それに匹敵する言葉が、このエッセイの最後にあった。全く違うニュアンス、厳しさだけど、この言葉がずっと頭から離れない 『真の祈りは届かない。  絶対者は何も応えてくれない。  この沈黙こそが、我々の祈りに天が応えてくれたということかも知れない。』
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