
しんどうこころ
@and_gt_pf
2026年3月29日
愛人(ラマン)
マルグリット・デュラス,
清水徹
読み終わった
びっくりするくらいよかった。装丁の印象に反して、これは明らかに名作である。
本作は『愛人』というタイトルながら、甘いロマンスは一切語られない。
占領下の異国という環境、いびつな家族、そして貧困の中で、デュラスがどう生きたかが語られる。
軽快な文体でありながら、それは楽しげな軽さではなく、現地の気候のような湿度を帯びている。語られるものはかなしみと危うさに満ち、静かに彼女の顔に皺を刻む。
苦いでは形容しきれない青春。重苦しい日々へのささやかな反逆と、そこで知る甘美な快楽。
精神は委ねず、肉体の快楽にのみ身を許す。反逆は決して劇的ではなく、静かに進む。
母から愛され損ねたデュラスは、どこか母と似ている。そこから逃れようとしながらも、完全には逃げきれていない。
母は娘の内面に自らの影に無意識に見出し、自己嫌悪してしまうのであろう。
時折、デュラスは自身を「わたし」ではなく「彼女」と呼ぶ。主体から離脱することで、情景と感情は冷ややかに保たれ、逃れようとしても逃れきれない運命の感覚を際立たせる。
彼女の時間は、ガラスのようにはかなく、危うく、そして透き通っている。



