勝村巌 "かんがえる子ども" 2026年3月30日

勝村巌
勝村巌
@katsumura
2026年3月30日
かんがえる子ども
2020年に亡くなった安野光雅が2018年の最晩年に著した本。たくさんの絵本を著し、国際アンデルセン賞も受賞している著者による、子どもをいかに育むかの視点についての本。 著者は小学校の教員を経て、教え子に福音館の役員の子がおり、その流れで絵本を書くこととなり、やがて絵本作家となったという経歴の持ち主で、教育的な視点を持った絵本も何冊も作っている。 また昭和30〜40年代には文科省の図画工作の学習指導要領作成協力者として、様々な提言をしたことも知られています。その後、安野光雅は僕のよく知る教科書会社で教科書編集委員という立場で参画するのですが、当時の官僚的な教科書編集社とは、あまり相性は良くなかったらしくその辺りの話は様々なエッセイなどで、割と苦々しく語られていることがあります。 この本を読むと、そんな安野光雅の教育に対するコンセプトは、子どもが自ら考えること。問いを立てて、答えを急がず試行錯誤を繰り返し、言葉だけではなく図や絵などから情報を読み取ることも含めた、かなり現代的なものだったことがわかります。 何よりも語り口がソフトなのが良い。自らの実感的な経験から語られる文体は優しく、しかし、対象に切り込む率直さがあり、嘘がない。 世界中を旅してスケッチしながら、自分が何を受け止めてきたか、ということも例に出し、読書と旅をセットにして、人にとって大切なものとしているのも素晴らしい。 哲学的にはデカルトを愛読していたことも語られます。方法的懐疑の感覚は1926年生まれで徴兵され、本土決戦を覚悟したのちのポツダム宣言受諾を経ての、戦場体験のない兵隊であった安野光雅にとっては当然のものだったと思われます。 とにかく全ての権威を疑い、子どもたちには騙されない知識を育みたいと希求していたのだと思います。 今の日本に必要だったのはこういう思考を持った教育だったのかもしれません。社会が崩壊しつつある今、安野光雅の声を聞くことが大切な気持ちです。 良い本でした。大変おすすめです。
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