
あざらしシンイチ
@reads0106
2026年3月31日
LGBTの語られざるリアル
ジェイソン・モーガン,
我那覇真子
読み終わった
聴き終わったが、これはさすがにひどい。酷いだろうとか思いながら聴き始めたが、ちょっと予想外の方向だった。専門家でもなんでもない人たちが、これまた専門的裏づけの怪しい言説をつまみ食いして、さらにそこから五段飛ばしくらいの結論を断定口調で語っているだけにしか聞こえなかった。ただのトランス嫌悪ではなく、普通に陰謀論である。
要するに著者らがやりたいのは、「ワシントン」だの「グローバリスト」だの「ディープステート」だのが、いわゆる“トランス問題”を先鋒にして日本の伝統や家族や社会を壊そうとしている、という陰謀論を語ることなのだろう。しかも、日本人の“おおらかな価値観”が邪魔だから狙われている、という話にまでなる。ここまでくると、議論というより妄想の披露である。
性別違和を抱える若年者に対して医療的介入をどこまで認めるべきか、あるいは一部に過剰・不適切な医療的誘導が本当に存在するのか、といった論点自体は慎重に検討されるべき重要な問題である。不可逆的な処置が関わるならなおさらで、その論点自体は真面目に扱われるべきだと思う。
しかし、本書は医学や実証研究に十分通じているとは思えない人物によって書かれており、同様の内容を論じたアビゲイル・シュライアーの書籍についても、すでに多くの学術的・医学的批判が存在する。もちろんシュライアーは反LGBTの活動家であろうし、批判者も推進派の活動家とみなすこともできる。どちらもそれなりのイデオロギーはあるという相対化は可能だ。そして私自身、この分野について確定的な判断を下せるほどの知識はないが、だからこそ、現時点ではどちらか一方に単純化して断定するのではなく、エビデンスの水準や限界を見極めながら慎重に議論するのがフェアだと思う。少なくとも、この本を読むことで問題の理解が深まるとは感じなかった。
しかも著者らは、トランスジェンダーについて語るだけの最低限の知識すら怪しい。性染色体は変えられないから身体的な性別移行は虚構だ、などという、あまりにも粗雑なことを平然と言う。さらには、トランスジェンダーは要するにストレス由来の“勘違い”で、その原因は伝統的家族の解体と親の愛情不足だ、という、かつての"自閉症"をめぐる言説を思わせるような話まで持ち出す。ここまでくると不正確とか雑とかいうより、単に有害だと思う。
一応留保らしきものを挟む場面はあるが、全体としてはトランスフォビア以外の何物でもない。慎重さが必要なテーマを、陰謀論と偏見と雑な一般化で塗りつぶした本、というのが率直な感想である。少なくとも、これを読んで何かを理解した気になるのは危険だと思った。