@s_ota92
2026年4月1日
今はもうない
森博嗣
p10
「そうして人は、常に明るい綺麗な道筋を顧みようとする。おそらく一種の防衛行為だろう。過去の不連続性は決まって忘却される。」
p12
「彼は本気でトンネルが面白いと思っているのだ。」
p23
「「君よりはね。」」
p24
「音階でいうと、ド・ド・ド・レ、だった。」
p28
「「スーパー ・ヘテロダイン・ジョーク?」」
p38
「「女の、という部分は余計です。」」
p43
「彼女のファーストネームをめぐって、私たちは前代未聞の賭けをすることになる。」
p45
「座右の銘は、「可能な限り独り」である。しかし、このときの私の感情は、現代国語の試験問題の解答のように、数文字で書き表せるほど単純ではなかった。」
p46
「「私、対ポーカ・フェイスの戦歴があるんです。」」
p60
「もしそれが演技だったら、女性より恐ろしいものはこの世にないだろう。」
p70
「この三階の大小二つの部屋が、のちのち重要なのである。」
p74
「なるほど、百のものに出会えば、十のものはマイナスにも見えるということか。」
p79
「何度かベルが鳴ったあと、「西之園でございます。」という上品で丁寧な年配の男の声が聞こえてきた。」
p90
「これはいわば「場」であって、人間誰でも、場がなくては落ち着かないものだ。」
p90
「外は本ものの嵐だったが、屋敷の中は、今思えばまさにこのときが、嵐の前の静けさ、だったわけである。」
p99
「全部で五つ、黒いスイッチが並んでいて、丁寧に、「1F北」「1F南」「2F」「階段・廊下」「3F」とマジックで書かれたテープが貼り付けてあった。」
p102
「人生という航海は、最初、誰もが小船で漕ぎ出すのに、いつの間にか自分より大きな船に便乗し、ときには人の乗り過ぎで、その大船が沈んでしまったりもする。ずっと一人のままなら、沈んでも一人だけだ。」
p115
「まさに、真夏の夜の夢だった。」
p129
「「誰が映写機が回したのですか?」」
p136
「「映写機が回っていました。」」
p139
「ああ……。私の人生で、これが最悪だ。とびっきりの汚点だろう。」
p148
「「貴方が真剣だったら、それで、何をしても良いのですか?」」
p148
「「同じです。相手のことを考えない人は野獣と同じです。貴方は、そういう男だけの一方的なルールしか持っていない。私、貴方を軽蔑します。もう、顔も見たくありません。少しでも分別があるのなら、どうか、私の前から消えてください。」」
p153
「「覚えておかられると良いわ。一度失った信頼は、そうそう簡単には取り戻せないものです。今の貴方は断られて当然です。」」
p176
「「珍しいですね、超短波でSSBって。」」
p196
「それこそ、あとのお楽しみ、ということにしておこう。」
p208
「西之園嬢は、その先生のことを「子供のようだ」とか「可愛らしい」と表現していたが、たぶん退官まえのご老体だと思われる。」
p210
「スイッチ・バックか……。」
p211
「上品と忠誠を充分に溶かし合わせ、肩に流し込んで固めてできたような人物だ。」
p215
「犀川はわざととぼけているのに決まっている。たぶん、自分が怒るところが見たいのに違いない、と彼女は希望的に考え、素直に期待に応えたのだ。なんて、健気な私、と自分を慰めながら。」
p220
「「言葉とか、理論というのは、基本的に他人への伝達の手段だからね。言葉で思考していると錯覚するのは、個人の中の複数の人格が、情報や意見を交換し、議論しているような状態か、もしくは、明日の自分のために言葉で思考しておく場合だね。」」
p225
「いつものことだが、犀川と同じ問題を考える、いわば思考の同調(シンクロナイズド・シンキングとでも呼べそうだ)、その時間が彼女の一番のお気に入りだった。」
p231
「諏訪野氏は、驚くべきことに、西之園嬢のために着替えを用意してきていた。」
p242
「しかし、実はこのあと、さらに驚くべき事実が判明することになる。しかも、ますます謎めいた事実が……。」
p245
「髪が短かったのである。」
p247
「「ピィピィ?」」
p265
「男女が親しくなり、多少でも馴れ馴れしくなると、お願いの言葉の構文がすべて、反語あるいは疑問形の形態をとるようになる。」
p285
「髪が短いことで、私たちは勝手に耶素子嬢だと思い込んでしまったが、彼は、娯楽室で死んでいたのが自分の恋人だとわかったのだ。」
p287
「自分のことをマリー・アントワネットだとでも思っているのだろうか……。」
p292
「プレタ・ポルテ、つまりPPだ。」
p324
「いやはや、人間、誰でも皆、頭脳を持っている。それも、少しずつ仕組の違うやつをだ。」
p326
「「……でございます。はい……。モエお嬢様がですか?いえ、それが……。」」
p344
「いつの間にか、仮説から法則に昇格したらしい。」
p347
「「スイッチ・オン。」」
p351
「こうやって、とぼける人間ほど、一般に実力は高い。」
p379
「仮説を持たない者は、何も見ていない。」
p390
「「間違っているからです。」」
p402
「「じゃあ、しません。スイッチ・オフだ。」」
p406
「まったく……、だから、この男は嫌いなんだ。」
p410
「人は時間と空間において、何の自由もない。」
p419
「「だって、の終止形。」」
p422
「「でも、ピザと同じ。」」
p437
「会話の本質は、つまり会話の内容にはない、という極論さえ導かれる。」
p447
「「そう……、諏訪野より強いチェスの相手、くらいかしら。」」
p449
「スイッチが切れたおもちゃのようだった。」
p459
「どんなに興味深い会議でも、終わると嬉しい。それと同じように、どんなに苦しい恋愛も、終わると寂しくなるようだ。」
p466
「この人は、素晴らしく……スペシャルだ。」
p468
「綺麗なものに理由がないように、私たちを魅惑するすべての存在は、理屈がない。何故、魅力があるのか。その理由を考えてはならない。考えた瞬間に、それは逃げてしまう。ただ、その美しさを感じることができれば、それで良い。」
p472
「そんな私にとって、この数十時間は、一息入れるスイッチ・バックだった。」
p474
「萌絵はいつも、本をベッドの上で読む。」
p476
「「ここのオーブンは火力が弱くて、どうも、いけません。」」
p480
「「世の中は、最初から複雑なんだし、人間は最初から一人だ。」」
p483
「「最適でないものを許すことが洗練だ。」」
p485
「「つまりは、伝達するために思考する、といっても良い。伝達する、ゆえに我あり、ってこと。伝達することを想定しない思考、というものは、たぶん、ありえない。」」
p486
「「違うよ。いいかい、デジタル信号がオンとオフ、つまり、1と0で表現されているように何も言わないことも、伝達なんだ。信号を送らないことで、意味をなす……。つまり、伝達する。」」
p487
「「ね、いいでしょう?一生のお願い!」」
p491
「見せつけているのは、悪戯に対する報復だ、と萌絵は思う。彼女は微笑みながら、犀川と眼差しを交わした。」
p508
「「笹木さん、貴方は、賭けには負けたのよ。」」
p509
「「彼女がいくつ歳をごまかしていたと思う?」」
p510
「「叔母様と叔父様って、十一違いですよね?私と犀川先生は十三違い……。」」
p518
「「二人でシネマ・ショー……、なんてね。」」
p523
「「解答に行き着いた人は、皆、黙ってしまったのさ。」」
p526
「人間だけが、悲しいのに笑える。嬉しいのに泣けるのだ。」
p528
「「PPだね。」」
p529
「それらの音も、光も、少年の思い出とともに、地球上のすべての大気に飛散し、拡散、消散して、今はもうない。」