村崎 "ことばと vol.7" 2023年11月18日

村崎
@mrskntk
2023年11月18日
ことばと vol.7
ことばと vol.7
書肆侃侃房編集部
池谷和浩「フルトラッキング・プリンセサイザ」 VRと現実の世界を交互に生きる〈うつヰ〉、現実ではバスタオルで体を拭くことやその日することを一から+まで書き出し実行できるようにするなどかなりルーティンに縛られているけれど、VRではたぶんルーテイン的なことはなく、いろんなことから解放されている感じ。すぐそこのカレー屋までの道順を丁寧にシミュレーションするほどの神経質さを持つから、突然の車の音に驚く描写に私までなんか不安になった。言葉への執着もいい、有給と有休どちらなのか(わかる)、裏紙、「ご自宅用ですか」という問いに対して「ストリートの道具だろう、これは明らかに」、おもしろい 藤野「おとむらいに誘われて」 友人におとむらいに誘われ出かけ、主にその道中の話。言葉ひらき、髪ひろい、ぬる豆腐売り、夕立宣言士…など不思議な職業が次々と出てくる詩のような小説だった。あらゆる物が生きているように描かれる世界観が好き。 記憶を辿る構造と思い出すまで忘れていた記憶に気づくことそれ自体が〈おとむらい〉にもなるのかなあと思った。読み手によって浮かぶ景色は違うと思いますが、私は昔の大学ノートの切れ端に再会したときと夕焼けの場面が好きです。〈その夕焼けも順にしらしら抜けていき夜に場所をゆずりつつある。〉 町屋良平「植物」転勤前の送別会で同僚から五円玉を受け取ると、五円玉の穴から植物が生えてきて自分や恋人に巻きつく…という私の好きな設定!植物に巻き付かれた恋人はなんかせつない気持ちになるなど全体的に抒情的。語り手は30枚以上の小説を書けずにいたけれどクズ的な恋愛をすることで(と私は読んだ)長い小説を書けるようになる、町屋良平さんの描く恋愛、恋愛観?が好き、たいしたことのないような、でもとてもたいしたことであるようにも描かれていると思う 片島麦子「メントリの始末」 親の離婚によって離れて暮らしていた姉弟が父の形見分けのため再会、その形見のなかに「メントリ」というUMA的な生物(でも飼育禁止として定められている)が残っており、その始末をどうするかという話。メントリは水槽にいるので水辺の生き物、奇妙な生物を連れながら姉弟が過去や親のことを語り合う場面はおかしみがあってよかった。最後はホラー風味でもあって読後感がよく、やっぱりこういう世界観好きです 大前粟生「パラパラ」 めっっっっっちゃおもしろかった。25年間、雑貨屋チェーン「モチョ・モチョーテ」のマスコットキャラとして従事してきた斉藤智康、ある日本社に呼び出され「〈も〉を模ったマスコットキャラクターと変更する」と言い渡されるがそれが実はやらせで、顧客から続投の声をもらうまでがマーケティングと例のアレをなぞらえる形で話が進んでいく。恋人の U子からへ怪しい陰謀論が飛び交う「真実」が載るサイトを紹介されたりそのサイトの影響で人の言葉の裏を考えたりメンタルやられてゾウとパラパラ踊ったりする(タイトルはあのパラパラなんだよ!)売れるとか人気が出るとか世俗的な気持ちもなんというかとてもストレートに書かれていてすごくよかった。く売れるなんていうものさしが心に生まれたのはひさしぶりだった。直視すると暗闇だけど、見ないふりをするとまぶしすぎる。>好き 木下古栗「君たちはどう生きるか」 笑っちゃった。冒頭いきなりビニール袋を敷いてその上で脱糞、向かいのタワマンのベランダに固めた便を投げ入れるというトンデモ行動を起こしたと思ったら大学の授業で立派な講演をはじめる。SDGsやメディアの役割について語ったたあとの家での生き方が正直すぎる。「清廉潔白には程遠い」「道を外れることもある」と自分を表したあとに「日々是修正ですね」などと言われていたけれど、修正する気ないだろう 佐川恭一「不服」 十九歳の頃から十年、付き合った恋人に未練を持ち続けている〈私〉。一人目に対してはほんの一瞬関係を持っただけでふられ、ストーカーのような行為をするなど執着心がけっこうすごくて癖が強い。社会に出てからの会社のブラック度合いも強い、二人目の恋人の母親の厳格さも強い。地獄のような環境を過ごす<私の淡々とした独白が癖になる、そしてタイトルのストレートさもよい、「不服」、 最初から最後まで本当にこれに尽きる。 最後の納得のいかなさに思わず笑ってしまった 福田郎「才能」 小説の才能について翻弄される二人の男の話。創作をする人なら一度くらいは悩んだことがあると思うけど、<自分には才能がない>云々のあれ、でも小説の才能って具体的になんだろうね、才能はあったほうがいい、ていうか欲しいけど、そんなもんないし、なんで書き続けてるの?なんて聞かないでほしいし、ただ書いているから書いているだけ、なにも言わずに書かせてほしい、でも才能欲しい...ひりひりしたあとに冒頭に戻り「あ一もう俺はどうすりゃいいんだ、マジでわかんねえよ、なんなんだよもう、助けてくれよ」のつぶやきに対してのリプライに、本当にね...と頷きました
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