ピエ "エル・スール 新装版" 2026年3月22日

ピエ
ピエ
@pie_202
2026年3月22日
エル・スール 新装版
エル・スール 新装版
アデライダ・ガルシア=モラレス,
熊倉靖子,
野谷文昭
何となく読みたくなって再読。100ページほどで行間も広いのでさらりと読める中篇だが、この孤独で閉じた世界に浸れるところが好きだ。 ビクトル・エリセの同名映画の原作だが、私は映画の方は観たことがない。同じくエリセの「ミツバチのささやき」と「瞳をとじて」は昨年末に観たのだが、エリセの静かで余白を大事にするような世界観に、この本は更に孤独を深めたような雰囲気がある。 語り手の少女アドリアナとその家族は、村から少し離れた家に住んでおり、(母とお手伝いのホセファは別にして)互いに理解し合うことはなく生きている。しかし読者としての私から見ると、彼らに仲良し家族として団結していてほしいとは思わない。母は夫や娘にこうあってほしいという気持ちを押し付け、娘は母や父の思惑には沿わず育ち、父はそんな家族を顧みずずっと望んでいた死を選ぶ、そのバラバラなあり方がこの家族には相応しいと思える。 物語の終盤、アドリアナは父の故郷セビーリャに向かう。タイトルの『エル・スール』はスペイン南部アンダルシア、このセビーリャを指しているのだが、この場面になると描かれる情景の日差しが強くなったように感じるのは私の先入観のせいだろうか。 私にとってアンダルシアは、明るい日差しを浴びたパティオ(中庭)の中で歴史が眠り込んでいるような場所である。この物語でセビーリャが描かれる場面はとても短いが、まさにそのイメージに沿っており印象深い。 物語自体は短いが、最後に野谷文昭による訳者解説が20ページも付いているのが嬉しい。また、巻末の著者・訳者の来歴に、野谷の膨大な訳書がかなり網羅的に記載してあるのも有難かった。
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