@s_ota92
2026年4月4日
数奇にして模型
森博嗣
p20
「それは、模型となるために生まれたような、戦慄すべき真のプロトタイプ。」
p23
「筒見明日香の形の良い腕、いや、その綺麗な指先の爪の形を見ただけでも、判別は容易だ、と彼は警察に主張した。」
p28
「情報を持っていることが障害となる好例である。」
p37
「余裕を失うことほど、幸せなことは、人間にはないだろう。」
p41
「それはきっと、ポルシェのロゴのように、西之園家のブランドが培った機能だろう。」
p53
「「兄は、方々の人間関係を離散していますので。」」
p56
「いや、実はわかるのだが、理解したくなかった。」
p58
「「やつが創平の従兄で、彼女が君のお姉さんならね。それなら、ごく常識的な範囲だ。」」
p61
「「西之園さん、一つだけ忠告しておこう。創平とうまくやりたいのなら、決してディフェンスを下げないことだ。バックラインをいっぱいに下げても、駄目。それは逆。」」
p64
「「ええ、そうね……。簡単な言葉で還元すれば、愛の行為なんです。」」
p70
「何かに似ている、と萌絵はふと思った。そう、ロボットの発声に似ている。」
p102
「あとになって考えてみると、その電話が、今回の事件の異様さに彼らを気づかせた最初のシグナルだった。」
p108
「嫌なことは多いが、すれ違う一瞬だけ我慢すれば良い。いつも時間が経てば、それはどこかへ消えてくれる。」
p114
「「朝一人で起きられない人は、早く結婚しなくちゃ駄目っていう、神様のマークなのよ。まったく……、社会の迷惑なんだから。」萌絵は朝は一人で起きられる。少し残念だった。」
p119
「何かを言いたそうな顔、というのは、不機嫌な理由を聞いてほしい顔とほぼ同義だ。だが、そういった他人に甘えた態度が、犀川は好きではない。」
p120
「最初に見つけた空きスペースに、犀川は芥子色の愛車を停めた。」
p122
「「お前の妹だよ!馬鹿やろう!」喜多が急に大きな声で叫んだ。」
p126
「時代に取り残されたいから、新聞を読まないのだ。」
p141
「「西之園萌絵一世一代のお願いがあるんですけど……。」」
p144
「それだけか……?たぶん、それだけだ。」
p154
「「こら!馬鹿、座れ!」喜多がもの凄い勢いでテーブル越しに身を乗り出し、犀川のコートを引っ張った。」
p174
「しかも、どちらの事件においても、文字どおり「鍵を握る」男がいて、それが同一人物だった。」
p175
「「喜多の感情的な思考は僕の理解を超えている。話を戻すけど、昨日、筒見明日香さんがその服を着ているとき写真を撮った連中が、わりと怪しいね。」」
p177
「諏訪野が自分からする話は、「最近」と断りがつかなければ、おおかた第二次世界大戦よりも古い時代のことだった。」
p181
「たとえば、妃真加島の研究所であった事件、N大の極地環境研究センタの事件、三重県の青山高原の事件、昨年の女子大生連続殺人事件、などなど。これらの偶然(彼女はそう信じている)が、もともとのポテンシャルに追加された。」
p183
「首が切断された死体のすぐ近くで、彼女は、待ち合わせの恋人に手を振るみたいに弾んだ気持ちになった。」
p188
「「物理的な説明なら、いたって簡単なんですけれど、確認が必要です。それに、どうしてそんなことをしたのか……、その意図が理解できないの。」」
p191
「そんなものはなかった、と三浦は思った。」
p195
「「腕と脚の形です。」」
p203
「「まあ、どうしても言わなくちゃいけない場合は、そうね……。」国枝は片方の眉をほんの少しあげた。「結婚相手、かな。貴女、そんな馬鹿なこと考える暇があったら、他にやることないか?さあ、さっさと出ていきな。」」
p205
「「犠牲にするものが多いほど、デザインは当然、洗練されるんだ。削られるほどシャープになる。それが、そもそもデザインの本来の意味だし、シャープっていう形容の定義だろ?そんなの、自明のことだ。」」
p207
「相手にどう呼ばれるのか、ということも、本人の機能、すなわちデザインのうちだろうか?おそらくそうであろう。」
p209
「国枝くんが結婚してから、変化があったのはそれだけだからね。日曜日の夕方に電話が鳴るようになった。僕の密かな推測の確認がとれたのは、たった今だ。」
p241
「「何事も、愛、八部目。」」
p248
「「考えるかどうかではなくて、実行するかどうかが、正常か異常かを分ける一線ですから。」」
p248
「「もちろん、あれも越えていません。どんな場合でもそうですけど、問題は、それを受け取る人間にあるんですよ。」」
p254
「「天体観測ですか?」」
p258
「「靴が同じだから。」」
p260
「つまり、より洗練されている、といえるだろう。ホワイトでクール、ドライでスタティックだ。」
p261
「「いつだって、そうなんだ。」」
p263
「「ふ……。どんなお金持ちでも、靴は二つしか履けない。」」
p268
「おそらく、一人でもmenなのであろう。」
p280
「「そうかな……。夜のこの時刻に、知らない男の家にやってきてさ……。服を脱げって言うならわかるけど、着ろって言うのは変だと思うよ。」」
p280
「「オスはメスが作るんだよ。」」
p282
「驚くべきことに、筒見紀世都は、そこで微笑んだ。」
p284
「本当にマリオネットのようだ。」
p291
「「おやすみ。」」
p293
「「そっか……、じゃあ、今夜は、紀世都君、使えないか……。」」
p295
「「泣いたんでしょう?あれをするのはね、いつも泣くときなのよねぇ。」」
p297
「「言葉ってね、自分で信じていないことだって簡単に口から出るものよ。あまり、真剣に考えない方がいい。」」
p300
「「今のは、信じていることとは全然別の話よ。ほらね?思ってもいない、いい加減なことをしゃべるものでしょう?人間って。」」
p301
「「貴女、相変わらず数字に強いわね。」大御坊は笑う。「ええ、人間みたいに複雑じゃないもの。」」
p314
「「だって、私ね……、あの鍵を見たもの。」」
p318
「「私は、仮縫いのためのマネキンみたいなものね。針でぶすぶすってわけ……。」」
p322
「国枝桃子より機嫌の悪そうに見える人間は極めて少ないだろう。」
p326
「「レッテルを貼って、それで理解したことにする、理解したつもりになる。正常と異常は単なるレッテルですか?」」
p326
「「この話題であと十五分議論を続けても、得るものは、たぶん何もない。」」
p326
「「答をネストにしているだけじゃない。関数どうしでコールしてる。」」
p340
「「それに、どう頑張ったって、そこそこの女としかつき合えねえもんな。」」
p344
「「なるべく、統一された思考に身を任せたい欲求が人間にはあるのよ。」」
p366
「彼は、萌絵のを見ず、視線は、空気中の二酸化炭素分子を捜しているようでもある。」
p367
「「人間と地面も違うだろう?だから立っていられる。人それぞれも違うものだから、お互いに摩擦が生じて、その摩擦のおかげで、滑らずにすむんだよ。摩擦がなかったら、すってんころりんだからね。」」
p368
「「このテーマで話を続けても、得るものはないな。」」
p370
「「それじゃあ……、君のことが好きで好きでしかたがない場合を想像してみよう。」」
p371
「「固有名詞にも意味はない。」」
p374
「「一部しか見ていないから、意味がわからない。そうじゃないだろうか?」」
p391
「「そう、ものごとを合理的に考える習慣が我々研究者にはある。たとえ、屁理屈だとか冷血だとか後ろ指をさされてもだ。だが、もちろん、理由があるからそうしている。それが、人間や社会を救うための最善の策だと信じているからだし、同時に、自分のためでもあるからだ。違うかね?それだけのことだと思うが。」」
p395
「「どうして、僕のことを医者だって言ったのかなあ……。」」
p398
「「名乗るほどの者じゃありません。」」
p403
「筒見紀世都のメッセージが、魔法の呪文だった。」
p413
「「君の場合、方程式の変数にどんどん数を代入していって、両辺の値が等しくなるのかを確かめるやり方だ。ニュートン・ラプソンに近いな。」」
p415
「「クリップの話だよ。」」
p424
「「最近、ラム・ダブラ入れたからな。」」
p425
「それは理由のない直感だったが、今までに、これに似たインスピレーションが間違っていたことは、一度だってなかった。」
p443
「僕はそいつを知っている。そいつは、僕が知っていることを知っている。」
p458
「「久々に走ったな。」金子が小声で囁いた。」
p461
「「名乗るほどの者じゃありません。」」
p465
「「わざわざ来た甲斐があった。」」
p470
「「宇宙と人の世の模型だと思いますよ。」」
p479
「恐ろしいというより……、綺麗だった。」
p481
「その顔も、躰も、真っ白に塗られている。」
p488
「「僕ね、中学のとき、真空管アンプを作っていて、感電したことがあるんだ。」」
p491
「「しかし、危なかったよな。」喜多が呟いた。「火事なんて、俺、あのとき以来だぜ。」「僕は三回目。」犀川が言う。」
p491
「「おさきに、西之園。」」
p492
「「西之園先生と同じ飛行機だったんだそうだ。」」
p495
「「でも、私のディフェンスが下がっていたから……。」」
p503
「「魔がさしたんですね。」」
p513
「「模型は型だ。人形はかたち。字が違うだろうが?」」
p517
「犀川に一番質問したかったこと、それは、人間を数える一人という単位の定義についてだったが、彼女は、それを口にすることができなかった。」
p523
「諏訪野が出してくれるコーヒーは魔法だ。」
p525
「「形とは、すなわち数字の集合だよ。」」
p527
「「しかし、彼の話は、非常に核心をついていた。作る行為、作る意志、作るときの目、作るときの手を、再現するために模倣する、と彼は言いたかったのだろう。造形の行為や動機自体を再現することに、モデルの意図がある。それこそが、人類が子孫に伝達したい最大の遺産だからね。」」
p535
「「たぶん、形に拘っていないんですよ。」犀川が囁いた。」
p542
「「僕さ、若い女性の名前だけは一発セーブなんだよね。覚えちゃうと絶対忘れないんだ。」」
p546
「「誰でも、どこかの仲間外れです。」」
p549
「そんな瞬間というのは、まるで、ポジフィルムがネガフィルムに反転するように基準が入れ替る。」
p554
「「ただね、急にいなくなられては困るんだ。これは人間としての最低毛の条件だ。たとえば、自殺するなら、一週間まえにいってもらわないと、実験のスケジュールに支障がある。」」
p557
「「でも、理由は自分ではわかりません。だって、そう言う相手の方が、私よりずっと変わっているんです。」」
p560
「彼は片手を握り締め、彼女の鼻先に伸ばす。「チャンネルはどこだ?」」
p565
「「仲直りなんてしない方が得だよ。もう二度と喧嘩しないで済むんだからさ。」」
p566
「「あの……、喧嘩なら、屋上で。」」
p568
「「不快な意味があるのでは?」国枝が切り返す。」
p588
「犀川は、何かに気がついたのではないか、と彼女は思った。」
p594
「犀川は可能性を四つ思いついた。」
p595
「「曾我先生も、頭をお大事に。」」
p595
「しかし、その名前を見たとき、躰が一瞬震えた。」
p609
「ところが……。その凹みの形というのは、人間だった。」
p612
「そうか……。何もかも、わかった。今回は、犀川先生より……、私の方がさきだ……。」
p621
「最善を捨てることによって最悪を避けるシステムに切り替わったのだ。」
p626
「「ただただ、人間は、推移のプロセスを見たいだけなんだ。形が変わる、歴史が変わる、その瞬間を見たいだけなんだ……。」」
p627
「しかし、ゼム・グリップはいつだって、どこかのポケットに潜んだまま一生を終わるのである。」
p629
「「あの、どうして、そうやって一方的な価値観で人の行動を測ろうとするのでしょうか。」」
p630
「「だけど、今まで、人から異常だと言われたことは一度もありませんよ。考えているだけでは、誰にも知らないし、非難もされません。」」
p633
「犀川の中で、一人を除いて全員が迷っている。」
p639
「「西之園!」」
p655
「個人がそうであるように、人間が作り出した社会もまた、すべてこの三分のニの法則に従っている、と犀川は思う。」
p656
「「僕から観れば、リスキィでパティキュラな状況だったかもしれないけれど、」」
p674
「「馬鹿だなあ……、赤外線なんだから、人間の目には見えないんだよ。」」
p675
「「それ、模型のキットと同じだな。」」
p676
「「私たちの絆を甘く見たのが、彼の敗因でしたね。」」
p678
「「あ、今のジョークだよ。」」
p680
「つまり、一本なんてものは、そもそもない。ただ、どこかで人間が単純化して、一本だと思い込もうとする単位なのでは……。それが一本。人の単位も、きっと同じ。単純化され、近似化された単位。それが一人。」
p685
「<大事な話があるから屋上へ来い>と書かれた金子の字だった。」
p693
「「アシカとオットセイの違いは、いくら?」」
p695
「直接言えないこともあるし。直接言ってもらえないこともある。」
p698
「その幸せは、とても小さかったけれど、躰は暖まった。五十円よりは価値があったかもしれない。」
p699
「それは、小さな人形だった。」