
読書猫
@YYG_3
2025年3月17日

鼻
芥川竜之介
読み終わった
読み直した
(本文抜粋)
“──もう茹った時分でござろう。
内供は苦笑した。これだけ聞いたのでは、誰も鼻の話とは気がつかないだろうと思ったからである。鼻は熱湯に蒸されて、蚤の食ったようにむず痒い。
弟子の僧は、内供が折敷の穴から鼻をぬくと、そのまだ湯気の立っている鼻を、両足に力を入れながら、踏みはじめた。内供は横になって、鼻を床板の上へのばしながら、弟子の僧の足が上下に動くのを眼の前に見ているのである。弟子の僧は、時々気の毒そうな顔をして、内供の禿げ頭を見下しながら、こんな事を云った。
──痛うはござらぬかな。医師は責めて踏めと申したで。じゃが、痛うはござらぬかな。
内供は首を振って、痛くないと云う意味を示そうとした。所が鼻が踏まれているので思うように首が動かない。そこで、上眼を使って、弟子の僧の足に皸(あかぎれ)のきれているのを眺めながら、腹を立てたような声で、
──痛うはないて。”