シダー・マウンテン "イン・ザ・メガチャーチ" 1900年1月1日

イン・ザ・メガチャーチ
【書評】イン・ザ・メガチャーチ 2026年本屋大賞を受賞した朝井リョウのイン・ザ・メガチャーチ。受賞発表の1週間前くらいにギリギリ駆け込みで読破していたので、偉そうに書評を書く。あらすじはご自身でご確認を(省略)。 読み終わってすぐ、「イン・ザ・メガチャーチ 参考文献」でググったほど、下調べがされていると感じた。読破してすぐに本人のインタビュー動画や記事を確認したが参考文献は非公開、というか今まで蓄積されてきた脳内にある知識を書き連ねたものらしく、朝井リョウの現代を切り取る力的なものは凄まじいと感じた。 ファンダム経済を作る側とのめり込む側、のめり込んでいた側それぞれにある「物語」の描写と展開が実にリアルで、特に(私と近い世代の)武藤澄香とその周辺にいる人間たちの物語は、どこかで聞いたことある話で溢れていた。Z世代、MBTI、就活、留学、意識高い系とそれに対する冷笑。全て聞いたことある、見たことある世界だった。あまりの生々しさにすぐに読み直そうなど思いもしないが、自分が澄香の父親(久保田慶彦)くらいの年齢になった時にもう一度、時代小説として読み返したい。 ファンダム(経済)が誘い出す、推し活の動きと陰謀論的なもの、さらに宗教を重ね合わせたストーリー展開があった。とあるシーンで登場する、教会が参加者と献金を集めるために行うマーケティング手法について以下の2つを取り上げている。1つ目は、コミュニティ。仲間や居場所のこと。2つ目はストーリー。本来それが持っている価値を上げるための物語のこと。あくまでも布教の手法としての実例であったが、当然意図的にアイドルなどのマーケティング手法と重ね合わせたものである。 重要なのは、こういったマーケティング手法とそれらが生み出している負の側面を表現し、半ば警鐘を鳴らす作品が日本経済新聞から出版されているという点である。日本最大の経済誌である日経新聞の夕刊連載としてスタートしたこの作品は、日本経済への問題提起としての側面がないとは言い切れない。 日経の読者層にもやや近そうな久保田は、推し活やアイドルには疎く、この作品は自然と久保田と共に、それを学ぶようにレイアウトが組まれている。実はこの小説、日経読者層である大手企業勤務の会社員向け「久保田と共にファンダム経済を学ぶ現代社会教材」なのである。 推し活や陰謀論は、本人が望んでそれに至ったわけではなく綿密に練られた戦略や、さまざまな試行錯誤の上で導き出された黄金パターンの物語によって焚き付けられたものである(と主張されているように感じた)。企業が売上至上主義に走った結果、全く関連のない企業同士でコラボイベントをしたり、煽りまくる動画でファンを熱狂させたりすることは、人間へのハッキングである(と主張されているように感じた)。 「そういうセコいことはやめよう」と日経新聞読者に間接的に伝えたかったという意図が透けて見えたこの作品が、本屋大賞受賞を通してさらに 大衆化する過程でどのようなリアクションを社会から受けるのかも含め、この作品が描いた「物語」だと思って見守ることにしたい。
イン・ザ・メガチャーチ
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