
amy
@note_1581
2025年3月17日

とりあえずお湯わかせ
柚木麻子
かつて読んだ
感想
いまとてつもなく白湯が飲みたい。
10月20日に発売された柚木麻子さんの『とりあえずお湯わかせ』を読んだ。
この連載はもともと柚木さんが雑誌とWebで連載していたエッセイを一冊にまとめたものだ。
私がこの連載を知ったのは去年あたりだった。
柚木麻子さんの作品がもともと好きでTwitterをフォローしたところ連載更新のお知らせをするツイートを見かけたのがきっかけだった。
連載を知ってからは更新がされるのが楽しみでしょうがなかった。
だから書籍化されるのも待ち遠しく、通販ではなく書店に足を運んで買った。
コロナ禍とそれに巻き込まれる子供や女性への眼差しを真摯に、そして激烈に描いたエッセイだった。
エッセイはいくつか好きなものがある。
ここ最近だと『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』が特に好きだった。
エッセイと聞くとほのぼのとしてて日常をコミカルに綴ったものだと想像しがちだ。
『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』はまさにそれだ。阿佐ヶ谷姉妹の二人のゆるやかな日常がくすりとするような切り取り方で書かれている。
でも柚木麻子さんのエッセイは全然違う。
その当時の(当時といっても古くて2018年頃だけど)世の中の動きをエッセイ内にくっきり反映しているせいか、生活に即したシビアな内容が多い。
『幸せそうで、何が悪い』というタイトルがつけられた回の一部だ。
この回では当時起こった小田急線の無差別刺傷事件のことに触れている。
「幸せそうな女性を殺したかった」という理由で男性が女性を刺した事件だ。
柚木さんは女性が幸せそうに見えないことが求められるのが日本社会なのかもしれないと言及している。
その例としてバーでマスターに怒鳴られたり、年長の編集者に苦言を呈されたりしたことを記してくれている。
私にも経験がある。駅や道端でわざとぶつかられたこともあるし、一人でまわらない寿司を食べに行ったときに「若い娘が贅沢をして」と絡まれたことがある。
若い女だからなめられてるんだろうなと思ったけど「幸せそうな女性」であることで攻撃したいという欲求が刺激されるなら、私が理不尽な目にあったことにも理由がつく。
理由がついたからといって納得しないし許すわけがないしふざけるなよ、と思うのだけど。
何がしんどいってこの「幸せそうな女性」に対して悪感情を抱くのは何も男性だけではないということだ。
女性が女性に対して「幸せアピール」「マウント」という言葉を使って楽しそうな、幸せそうな女性を揶揄することもあるのだ。
それだけ「女性は幸せであること」を許さない、女性自身にまで呪いを染み込ませている社会なのだと暗澹たる気持ちになる。
『この日本で、女性が幸せになろうとすること、幸せであることはもはや社会へのカウンターなのだ。』
「とりあえずお湯わかせ」p197
柚木先生は上記のように書きながらも決してパワフルなことは私達に投げつけてこない。
無理して幸せそうな振る舞いをする必要はない、それよりも楽になれる道を見つけてほしい。
そのうえで気持ちや時間に余裕があれば、年長者の男性を怒らせたときの自分みたいに無防備な振る舞いをしてみてもいいんじゃないかなと提案をしてくれる。
この圧が強くない、必ずしも拳を握って立ち上がれ!感がないところが私はすごく好きだし、日常に、自分に寄り添ってくれるようで安心する。
日常の延長で「もうちょっとどうにかなんないの?」「さすがにおかしいでしょー!」のテンションというか。
ロイホのパフェをつつきながらドリンクバーのコーヒーを片手に一緒に駄弁ってくれているような気がする。
……いや、さすがに恐れ多いのだけど。そういう気がするってだけだよ!
いまの現状に怒りややるせなさはいくらでも湧いてくる。いちいち腹が立つし本当にいい加減にしてくれと叫びたくなる。
でもそれだって気力と体力がいる。
生活をしているとそれに絡め取られて、気持ちが沈んで好きなことが楽しめない。自分が自分じゃなくなってしまうときもある。
そういうときに「そうだよね、腹立つよね」と優しく受け止めてくれながらも、ひとまず明日をむかえてみるかという気を起こさせてくれる。
力強くて優しい、そして熱いエッセイ本だと思う。
読んだらどうしても白湯が飲みたくなった。最近おいしさがわかってきたのだ。
ひとまずこれを書き終わったら、お湯をわかそう。






