活字畑でつかまえて "東京奇譚集" 2026年4月23日

東京奇譚集
東京奇譚集
村上春樹
『偶然の恋人』 主人公と姉が 10年ぶりの再会にしては 距離がいくらなんでも近くなりすぎではないか。 乳房切除手術を控えているにせよ耳にキスとは。 あと姉の旦那(傲慢な俗物であり同性愛差別主義者)は実際に付き合ってみると思っていたほど嫌なやつじゃなかったというのは都合が良すぎる。 これがもし長編ならその旦那との対決みたいな構図になるのかも。 作中で〈彼〉が読んでいた本 チャールズ•ディッケンズ「荒涼館」 『ハナレイ•ベイ』 サチさんがあまりにも自立した女性で 見知らぬ土地で自ら運転したった一人で 亡き息子に関する煩雑な手続きをこなしていくんだから尋常じゃない。 「大義がどうであれ、戦争における死は、それぞれの側にある怒りや憎しみによってもたらされたものです。でも自然はそうではない。自然には側のようなものはありません。〈中略〉息子さんは大義や怒りや憎しみなんかとは無縁に、自然の循環の中に戻っていったのだと」 「女の子とうまくやる方法は三つしかない。ひとつ、相手の話を黙って聞いてやること。ふたつ、着ている服をほめること、三つ、できるだけおいしいものを食べさせること。簡単でしょ。それだけやって駄目なら、とりあえずあきらめた方がいい」 はい、サチさん! いや、村上春樹大先生! 『どこであれそれが見つかりそうな場所で』 これはいい短編だな。 この作品は読み進めるほどに どんな結末に持っていくのだろうと 好奇心が掻き立てられる。 「我慢強さと注意深さ」が必要とされる作業。 まさに村上春樹的だ。 「クルミザワさん」という名前 相変わらずのネーミングセンスだ。 『日々移動する腎臓のかたちをした石』 主人公が小説家という設定。 5年間で4回、芥川賞の候補になっている。 「観察して、観察して、観察して、判断をできるだけあとまわしにするのが、正しい小説家のあり方なんだ」 「私の印象ではあなたはいつか、もっと長い大柄な小説を書くことになると思う。そしてそれによって、もっと重みのある作家になっていくような気が する。時間は多少かかるかもしれないけれど」 芥川賞候補、長い大柄な小説への移行 自己言及的だ。 「淳平くんって、すごく好きな女の人がほかにいるんでしょ?どうしても忘れられない人っていうか」 村上春樹はずっと『ノルウェイの森』的世界から抜け出せないでいる。直子の亡霊に付き纏われているというより、生きている側が亡霊に付き纏っている。 『品川猿』 猿も人間も等しく病んでいるということ。 名前に付帯する呪いについて。 それにしても村上春樹という人は 人の心に巣食う闇や病や呪いを 深い所で感じられる作家だ。 まるでカウンセラー坂木哲子は村上春樹そのもののようだ。 初期の作品では 名前を持たない登場人物を書いていた作家が 名前に付帯する呪いについて書いた素晴らしい作品だ。
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