
いぬい
@inuiru
2026年3月21日

異常探偵 宇宙船 (単行本)
前田司郎
読み終わった
「宇宙船」という名の探偵、依頼人は小児性愛者、三十歳の少年探偵団、謎の怪人……などなど、登場する人物は軒並み「ふつう」ではない。何がなんだかよく分からないがひとが殺され、探偵は調査に乗り出すが、探偵もふつうではないので何ひとつすんなりとは進まない。
(しかも作者の自我もすごい)(作者が読者に話しかけてくるタイプの小説、最近はあまり見ない気がするからなんかノスタルジックな気分になった)
終始「何がなんだか」という感じだが、それでも読後感がわるくはなかったのは、異常なひとたちが異常なりに己を内省し、まじめに(犯罪まがいのこともしているが)生きているからかも知れない。ある意味では「犯人」のほうが正常とも言えるが、狂気ではある。何が正気で何が狂気かも分からなくなるが、とにかく全員まじめにやっている。
印象に残ったのは、おそらく作中唯一「ふつう」に近い存在として描かれている、「宇宙船」の夫。彼は宇宙船から「ほんものの夫」ではなく「入れ替わった宇宙人」と思われており、そのような妄想にとらわれた妻を憐れみ、苦しんでいるのだが、そうして己を「正常なもの」と考えるのではなく、「ほんとうにそうだろうか?」と自問する。
妻を憐んでいるじぶんはほんとうに「人間的」と言えるだろうか?
他人の目を気にして離婚できずにいるじぶんは、ほんとうに「宇宙人」ではないのか?
じぶんは変わってしまったのではないか?
異常な性癖があろうとなかろうと、私たちは常に分かりあえず、じぶんがじぶんであることの証明さえできない。そんなわけの分からない世界を、人生を、どうにか生きようとする。「これがまっとうな正しい道だ」と信じられたら、生きるのもまあ気楽だろう。「ほんとうにこれでいいんだろうか」「まちがっているのは私ではないのか」と確かめながら生きるのは苦しい。しかし私はそういう姿に胸を打たれる。じぶんもそうだから。そして、そういう問いかけこそが、じぶんの人生に取り組むことだと思うから。
「宇宙船」と夫がドア越しに言葉を交わすラストシーンはある意味スタンダードだが、この物語の象徴に感じられてグッときた。私たちはみんな宇宙人で、ドア越しに話しているようなものだが、向きあうこともできなくはないし、通じることだってある。

