のーとみ
@notomi
2025年3月18日

太陽諸島
多和田葉子
読み終わった
三部作読み終えたので、感想は3冊まとめてここに。
多和田葉子の「地球に散りばめられて」「星に仄めかされて」「太陽諸島」は、三部作という形になってるけど、これはひと繋がりの長編小説だろう。本と本の間に区切りはなく、この小説の登場人物たちと同様、時間も空間も区切ることなく、流れていく。つまり形式も物語なのだ。日本らしき国の新潟出身のHIRUKOは、留学中に自分の国が消滅したという噂を聞く。彼女はスカンジナビア半島のどの国でも通じる独自の言語「パンスカ」を喋ることで、独自の自由さを手にしているように見えて、その言語に惹かれたデンマーク人の言語学者志望のクヌートと故郷探しの旅に出る。さらに環境問題に熱心な恋するドイツ人のノラ、その彼女が追いかけている、エスキモーながら日本人のふりが板についてしまったナヌーク、クヌートに恋しているインドから来たトランス女性のアカッシュ、何百年も生きて年を取ることを忘れてしまった日本人のスサノオといった面々が、それぞれの事情を抱えながら、国境を超えて東へと旅を続ける。その旅の中で様々な言語で交わされる会話こそが、この小説の全てと言っていいと思う。そうやって、「言葉」と「国境」と「民族」と「ジェンダー」と「時間」と「肉体」といった、あらゆる「境界」についての思考が物語となって動く。よくまあ、このテーマを、こんなにも面白い物語として書けたなあと、多和田葉子の言葉に対する感覚の巨大さにビックリする。
明らかに虚構の中の、どうかすると自分たちが虚構の中の登場人物であるという自覚さえ持たされているような、HIRUKOたち6人の、圧倒的な存在感がとにかく凄まじい。「地球に散りばめられて」を読み終わる頃には、もうこっちの頭の中に明確に彼女たちは存在している。それはつまり登場人物が見事に「言葉」で出来ているということで、そういう小説の達成が既に前提になっているという物凄い小説なのだった。もはや「越境」という言葉も過去のものにしてしまう勢いで、言語による壁を相互に補いながらすり抜けて、次々と国を跨ぐ意識さえなく、それぞれの国に生きる人たちと縁を結びながらも、消えた日本についての噂を追って、陸を海を巡る旅。途中、性格交換実験とか、ロボットとの性愛とか、神話と現実の混淆などのSF的な要素も取り込みながら、HIRUKOの旅が世界を少しだけ変える。その上で「神話にはなりたくない」と言い放つHIRUKOのキャラがいいなあ。グローバル化の対極にある、国という意識の溶融についての物語。遅ればせながら読んだわけだけど、完結してからまとめて読めたのは良かった。ずっと気になってた作品だったので、ともあれ読み終えてめでたし。
