
活字畑でつかまえて
@catcher-in-the-eye
2026年5月7日
ドグラ・マグラ(上)
夢野久作
読み終わった
「ドグラ•マグラ」
とんでもない読書体験。
これだから読書はやめられない。
こんな気持ちを味わうために読書をしているのだ。
圧巻の大作。
維新前後までは切支丹伴天連(キリシタンバテレン)の使う幻魔術の長崎地方の方言。一種の廃語同様の言葉で、単に手品とかトリックの意味がある。
「堂廻目眩(どうめぐりめぐらみ)」
「戸惑面喰(とまどいめんくらい)」という字を当て
「ドグラ•マグラ」と読ませてもいい、そのような意味の全部を引っくるめたような言葉。
「世界の人間は一人残らず精神病者」という事実を立証する精神科学者の談話筆記が載っているドグラ•マグラ
正木先生の遺稿
「地球表面上は狂人の一大解放治療場」
「この地球表面上に棲息している人間の一人として精神異状者でないものはない」
「キチガイ地獄外道祭文」の
精神病棟は満員ばかりというのは
現代では特養や介護施設に当たるか。
あらゆる施設は人手不足で受け入れ人数が限られ
商売は立ち行かず破綻する。
あるいは金欠や人間不審で要介護者を外に出せずに
介護者が疲弊し続けるシステムや病巣。
そんな地獄めぐり。
正木博士
「すなわちこの地球表面上は、昔々の大昔の、歴史にも伝説にも残っていない以前から、狂人の一大解放治療場になっているので、太陽はその院長、空気はその看護婦、土はその賄係りに見立てられ得るのだ。」
「実際のところをいうとこの地球表面上に生きとし生ける人間は、一人残らず精神的の片輪者ばかりと断言して差支えないのである。曲ったり、くねったり、大き過ぎたり、小さ過ぎたり、又は智慧や情慾が多過ぎたり、足りなかったりする、所謂、精神的の片輪者ばかりで、押すな押すなの満員状態を呈していると考えても、断然間違いはないのである。早い話がなくて七癖、あって四十八癖というではないか。」
「頭の働らきの不叶いなところを持っていない者は無い。すなわち精神日者と五十歩百歩の人間でない者は居ないのだ。」
「太陽は、これ等無限の精神病患者の大群を、地上一面に生み付けて、永久に無言の解放治療を続けている。そうするとその禽獣、虫ケラ以下の半狂人である人類たちは、永い年月のうちに自然と自分たちがキチガイの大群である事を自覚し初めて、宗教とか、道徳とか、法律とか、又は赤い主義とか青い主義とかいう御丁寧なものを作って「お互いに無茶を止しましょう••••••変な真似をやめましょう」をやっている。だから吾輩もその小さな模型を作って、僭越ながら太陽氏になり代って「無薬の解放治療」を試みている。「人類全部がキチガイ」という観察点に立脚した、ホントウの科学的な精神病の研究治療を試みているのだ。」
「まず人間の脳髄の作用から研究し直して「脳髄は物を考える処」という従来の迷信的な学説をドン底から訂正する。」
「但し念のためにお断りしておくが、その実験をやっている吾輩ばかりが、精神に異状の無い、太平無事のデクノ坊だと誤診されては迷惑だよ。」
「だから地上のほかの狂人は治療るとも、吾輩の精神異状だけは永遠に全快しないだろうと思う。これだけは慥かに保証出来る。云々。」
アンポンタン•ポカン博士曰く、脳髄の罪悪史五項
「人間を神様以上のものと自惚れさせた」
「人間を大自然に反抗させた」
「人間を禽獣の世界に逐い返した」
「人類を物質と本能ばかりの虚無世界に狂い廻らせた」
「人類を自滅の斜面(スロープ)へ逐い落した」
「かくして物の見事に人間世界から神様を抹消(ノックアウト)した「物を考える脳髄」は、引き続いて人間を大自然界に反逆させた。そうして人間のための唯物文化を創造さか初めた。脳髄はまず人間のためにアラユル武器を考え出して殺し合いを容易にしてやった。あらゆる医術を開拓して自然の健康法に反逆させ、病人を殖し、産児制限を自由自在にしてやった。あらゆる器械を走らせて世界を狭くしてやった。あらゆる光を工夫し出して、太陽と、月と、星を駆逐してやった。そうして自然の児である人間を片っ端から、鉄と石の理詰めの家に潜り込ませた。瓦斯と電気の中に呼吸させて動脈を硬化させた。鉛と土で化粧させて器械人形(ロボット)と遊戯させた。そうしてアルコールと、ニコチンと、阿片と、消化剤と、強心剤と、催眠薬と、媚薬と、貞操消毒剤と、毒薬の使い方を教えて、そんなもののゴチャゴチャが生み出す不自然の倒錯美をホントウの人類文化と思い込ませた。••••••不自然なしには一日も生存できないように、人類を習慣づけてしまった。」
「人間世界から「神様」をタタキ出し、次いで「自然」を駆逐し去った「物を考える脳髄」は、同時に人類の増殖と、進化向上と、慰安幸福とを約束する一切の自然な心理のあらわれを、人間世界から奪い去った。すなわち父母の愛、同胞の愛、恋愛、貞操、信義、羞恥、義理、人情、誠意、良心なぞの一切合切を「唯物科学的に見て不合理である。だから不自然である。」という錯覚の下に否定させて、物質と野獣的本能ばかりの個人主義の世界を現出させた。そうして人類文化を日に日に無中心化させ、自瀆化させ、神経衰弱化させ、精神異状化させて、遂に全人類を精神的に自滅、自殺化させた虚無世界の十字街頭に、赤い灯、青い灯を慕うノンセンスの幽霊ばかりを彷迷わせるようになってしまった。「物を考える脳髄」は、かくして知らず識らずの裡に、人類をめつさせようとしているのだ。」
「胎児の夢」以降は読み進めるのがキツイ部分もあったが、しかしそれは自分が文語体を読み慣れていないという事もある。
そして後半の
呉青秀のエピソードからとんでもない面白さになる。青天井を突き抜けるほどの面白さだ。
「すなわち、まずその時の呉青秀の心理的要素を包んでいる『忠君愛国の観念』という、表面的な意識を一枚引っ剝いで見ると、その下から第一番に現われて来るのは燃え立つような名誉慾だ。その次には焦げ付くような芸術慾••••••その又ドン底には沸騰点を突破した愛慾、兼、性慾と、この四つの欲望の徹底したものが一つに固まり合って、超人間的な高熱を発していた。つまるところ、呉青秀のスバラシイ忠君愛国精神の正体は、やはりスバラシク下等深刻な、変態性慾の固まりに過ぎなかった事が、ザラリと判明して来るのだ」
すげぇー。
呉一郎の好きな小説家
ポー
スチブンソン
ホーソン
図書館の書庫から出してもらったドグラ•マグラがボロボロで怨念がこもってみたいでよかった。
