
Haruhito
@haruhito27_reads
P25
私の父は、私が後半生を作家として生きたいと話すと、「つまらぬことを、独り仕事が……」と嘆いた。父は事業をやり遂げ、社員と共に働き、成長することが大人の男の仕事であると信じていた。この頃、つくづく父の考えが正しいと思える。

Haruhito
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P96
タクシーは身体も声も大きな私の前で停車した。二人と視線があった。私も急いでいたが、少年の目を見た時に何となしに、二人を手招き、「どうぞ、気付かなかった。すみません」と頭を下げた。
あの時の立場が逆で、私が少年であったら、やつれた男の事情など一生わからぬまま、いや記憶にとめぬ遭遇でしかないのである。それが世間のすれ違いであり、他人の事情だということを私は後になって学んだ。人はそれぞれの事情をかかえ、平然と生きている。

Haruhito
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P151
「時計を見て人を判断する者もいる。大事に使いなさい」
私はその時計を大切に仕舞っておいたが、或る時、どうしても打ちたい競馬があり、近所の質屋に持って行った。
「いかほど御入用で?」
「五万円あれば」
主人はそっと時計を戻して言った。
「五万円どころか、五百円にもなりません」
質屋の帰り道、私は笑い出した。